ついさっき、ほんの10分ほど前の出来事。
新宿御苑の辺りをダラダラ歩いてたら、駐禁のおっさんに呼び止められた。あの緑の服を着た、マナー違反ドライバーたちに嫌われているあのおっさんだ。
そのおっさんは持っていたボールペンで、その場に駐車してあった車と、僕の方を交互に指してこう言い放った。
高圧的なおっさんとアドリブ苦手な僕
–おい。この車あんたの?
沢野:い、いえ、僕のではございません
身に覚えのない車と高圧的なおっさんの態度に、変な丁寧語を使ってしまう。するとそのおっさんは、何も言わずに車のほうに向き直り、用紙に何かを記入し始めた。どうやら、おっさんの中では僕との対話はあの一瞬で終わったらしい。
急な出来事に弱い僕はドギマギしながらその場を後にする。そして今、あれから10分後の現在、僕はクソほどに腹を立てている。
沢野:(なんだあの高圧的な態度は! 俺関係ねぇじゃねぇかクソジジイ! ブチ〇してやろうか!!!!)
脳内に限って、僕は平気で「殺」という言葉を使うタイプの人間なので、現在このようなセリフが頭の中を飛び交いまくっている。
わかっている。たいしたことではない。暴力を振るわれたわけでも、名誉が傷つけられたわけでもない。本当に取るに足らないことだし、こんなこと気にも止めないほうが、大人だということはわかっている。
だが、それでも正直、ブチギレたい。
では、一体何がそんなにムカツクのか。その理由は簡単だ。
あのクソジジイは、自分が駐禁を取り締まる立場にあるからといって、自分が権力を持っていると勘違いしてしまっている。その勘違いから、駐禁とは無関係で善良な民である僕に、あのような高圧的な態度を取り、さらにその過ちに対して謝罪をせず、当たり前のような顔をして、駐禁という業務に取り組む。この姿勢、このスタンスが気にくわないのだ。
テメー何様だ?
このありふれたキレ台詞が一番似合う。
そして今、僕が心から思っているのがコレ。
沢野:(いやー、とっさにキレられる人が羨ましい!)
もう本当にコレに尽きる。あの瞬間にサクっと文句を言えたらどうだろう?
沢野:なんであなたはそんなに高圧的な態度なんですか?
この簡単な言葉を一言でも言えたら、どれだけスッキリするのだろうか?
僕のように出来事の整理と感情が遅れてしまう人間は、とっさにクソジジイにキレることができない。5分ないし、10分後、自分の正当さと相手の悪者っぷりに確信を持つが、時すでに遅し、気付いたときには大量のストレスが身体中に降り注がれる。
かといって、こんな小さなことを蒸し返して10分後に
沢野:さっきのあの高圧的な態度はなんですか?
とか言い出したらもうこっちの頭がおかしく見られてしまう。あの駐禁のおじさんたちを取り仕切っている大元の会社にクレームを入れても、ちゃんとその声がクソジジイに届くか不安になってしまい、それはそれでストレスになる。もう八方塞がりなのだ。
短気は損気
日本にはこういう諺があるが、これはそうとも言い切れない。すぐにキレるヤツのほうが、楽に生きられるというケースが多々あるように思う。