アイドル活動において、“卒業”が一番難しいんじゃないのとは思う。次のステージに進むための前向きな卒業もあれば、円満な雰囲気に見せかけていても実は……という場合もある。ファンを悲しませない形で卒業できた時点で、そのアイドルは100点満点でしょう。
優宇さんが東京女子プロレスを退団してフリーになった件は、最終的には明るい笑顔を見せてくれたので本当によかったですよね。
「『私の居場所はここだ!』って今思えるかって言ったら……」
優宇さんは小学生時代からプロレス好きで、将来プロレスラーになるために始めた柔道では、国体、インターハイにまで出場。2016年1月にリングデビューしてから無敗記録を更新し続けて、デビューわずか9カ月で団体の王者に上り詰めました。間違いなく東京女子プロレスでも一、二を争う強さの持ち主です。
しかし、なんだか最近は上手く行っていない印象でした。優宇さんがスランプに陥ったわけではない。団体内で自分の居場所をつかみきれていないような……。今夏にシングルトーナメント「第5回東京プリンセスカップ」が開催されるまでは、前座的な試合に出場してばかりで、あれだけの実力を持っているのに、なんだかうだつが上がらない状態が続いてしまっていた。
同トーナメントで2年ぶり2度目の優勝を果たしたときの「2年前は、ただプロレスが楽しくて楽しくて、がむしゃらにやって、だから優勝したとき、何も怖いものはなかった。でも正直、今回のプリンセスカップは本当につらかったです。この1年はベルトも落として、負けて、悔しいことがいっぱいあった」というスピーチは、今も思い出すたびに胸がキュッと締め付けられます。
「第5回東京プリンセスカップ」を優勝した優宇さんは、8月25日に行われた東京・後楽園ホール大会のメインで王者・山下実優に挑戦。敗北してしまったものの、互いのすべてをぶつけあうような死闘は観客たちの心に強く残った……のですが、煽りVTRでの「『私の居場所はここだ!』って今思えるかって言ったら実際そうじゃない」という発言を考えると、ベルトに挑戦して敗北したことが、優宇さんにとって東京女子プロレスに残る理由になるのか、それとも逆なのかわからなくて恐ろしくもあった。
さらに9月1日にはブログで、アメリカ遠征組に選ばれなかった悲しみをもらしており……。11月1日に東京女子プロレスの公式サイトにて、優宇さんが12月1日をもって同団体を退団してフリーに転向することが発表されたとき、悲しくはありましたが、驚きはしませんでした。
推したちよ、老人になってからオタクのことを思い出してくれ
でも優宇さんは最終的には前向きな気持ちで団体を離れることができたんじゃないかな。もちろん複雑な感情はあるでしょうが、東京女子プロレスという団体を別に恨んではいないんじゃないかな……と想像するのは、あまりにも能天気すぎるでしょうか。同期である天満のどかとの卒業試合を終えたあと、優宇さんが「確かに自分の居場所はここにありました」と見せた笑顔は嘘じゃないと信じています。
退団を発表してから、優宇さんは、「東京女子プロレスは温かい」という言葉をよく口にするようになりました。退団が決定してから、優宇さんが居場所を実感できたというのは皮肉な話のような気もしますが、最後にハッピーエンドに持っていけたならいいじゃない。なんとか間に合った、ということで!
ファンが推しに対してできることは、きっと、とても少ない。別れを告げられたときに引き止める権利なんて1ミリもないし、いくら日ごろ愛を伝えていたとしても、相手が「新しい場所に行かなきゃ」と感じる瞬間は来る。彼女の人生は彼女のものなのだから、しかたないのだ。
オタクができることは、推しが現在の場所を離れるときに少しでも寂しさを感じてくれるように、ひたすら「好き!」を伝えることのみ。欲を言えば、推しが老人になったとき、「あのオタクたちは気持ちのいい奴らだったよな~!」と思い返してくれたら最高にうれしい。
優宇さんの記憶の中で、東京女子プロレスでの出来事が「いろいろあったけど楽しかった思い出」でありますように。プロレスを続けているかぎり、きっとどこかで繋がる。いつか優宇さんが“海外で活躍中のゲスト選手”として東京女子プロレスのリングに再び上がってくれることに期待しています。