いとわズ

真夏の夜に路上で倒れている女性を運んだ

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約4分

僕は困っている人を見たら放っておけないタイプだ。

なぜなら、一度人を見捨てたりしたら自分が困っているときに誰も助けてくれない気がするからだ。人を見捨てた瞬間を偶然知り合いに見られたりしたら、そういうヤツだと思われてしまうのも怖い。

自転車でコケて血まみれの泥酔おっさん、35℃の炎天下で眠る泥酔おっさん、僕は様々な泥酔おっさんのために救急車や警察を呼んだことがある。不謹慎ながら、赤の他人のために救急車を呼ぶ行為は、正義っぽくてなかなかに気持ちがよい。

生け垣と女と下心

数年前の夏、真夜中のとある国道を散歩していた。トラックの音がうるさいこともあり、僕はそこそこのボリュームで鼻歌を唄い小躍りをしていた。そんなご機嫌な僕が、一瞬で青ざめる光景を目にする。生け垣に若い女性が頭から突っ込んでいたのだ。

一瞬身体が硬直してしまう。しかし、このまま放っておくのはマズイ。救急車を呼ぶか、その前に生け垣から引っ張り出すか……。

沢野:だ、大丈夫ですか?

うぅ、うう、、、、、

かすかに反応する女性。とりあえず引っ張り出すことに決めたが、ここで男として、よからぬ疑問が浮かんでしまう……

顔は、、、、

顔はかわいいのだろうか!?!?!?

不謹慎なことに、人命が掛かっているかも知れないこの状況で下心がうずき出す。しかし、夜中に散歩をしていただけでおいしい思いをするなんて、そんな夢のような話があるわけがない。根がネガティブな僕は、一瞬の期待にそっと蓋を閉じ、女性を生け垣から丁寧に引っ張り出した。女性は眼を覚まし、長い黒髪をかき上げながらゆっくりと頭を上げた。その顔は………

今まで見たこともないほどゲロまみれ!!!

アゴや首はもちろん、頬、目の下、さらにはツケマツゲにまでゲロが絡みついていらっしゃる!!

ゲロまみれなので冷静な判断はできないが、彼女は南原清隆に似ていた気がする。

沢野:あの、救急車呼びましょうか?

とりあえず他人を呼びたい。

だ、大丈夫……家すぐそこだから

敬語の僕に対してタメ口を利いてくるゲロ女。なんとか立ち上がろうとしていたが、すぐに足はもつれ再びその場に座り込んでしまった。

沢野:やっぱり、救急車呼びましょうか?

この場を誰かに託して一刻も早く立ち去りたい。

こ、ここ(国道)渡ったところのマンションだから……お、おんぶして……

図々しい!!

こいつは自分がゲロまみれの自覚があるのだろうか? おんぶなんてしたら僕の背中までゲロまみれになってしまう!

どう断っていいかわからず僕がまごまごしていると、ゲロ女はフラフラになりながらも立ち上がり、僕にもたれかかってくる。臭い。アルコール臭いし、香水臭いし、ゲロ臭い。この時点で僕のTシャツには彼女のゲロが擦り付けられている。もういい。どうせこっちも薄汚い部屋着だ。帰ってシャワーを浴びればいい。僕は、ゲロ女をおんぶしてやる覚悟を決めた。

おんぶしてみると臭さと重さのほかにもう1つの問題があった。持っていた紙袋だ。中にはシャンパンらしきボトルが入っており、これがおんぶの振動で振り子のように揺れてゴツゴツと僕の骨盤にヒットする。さきほどまでの快適なお散歩から地獄のような急展開。下心こそあったものの、基本的には善意での行動だ。いや、相手がおっさんだとしても同じような行動を取っていたはずだ。僕が一体なにをしたというのだ。横断歩道を渡り終えたあと、僕は少し泣いていた。

沢野:どこのマンションですか?

僕が問いかけると、女は寝ていた。地面に降ろしても起きない。何度呼びかけても起きない。不思議と怒りを感じない。僕は冷静に携帯を取り出し、おまわりさんを呼んだ。

おまわりさん:この女性とのご関係は?

沢野:他人です

ゲロまみれペアルック。おまわりさんは僕たちを他人だと信じてくれなかった。

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