北京オリンピックの開催がいよいよ迫ってきましたね。フィギュアスケートファン、通称「スケオタ」である私も、開催の日を今か今かと待ちわびています。なかでもロシア勢が4回転を跳びまくる女子シングルの試合模様を想像すると、興奮して夜も眠れません。「ロシア女子の枠が足りない」がスケオタの口癖になるほど、現在の女子シングルは“ロシア一強時代”なのです。
このワクワクを誰かと分かち合いたい。そんな思いを込めて、北京オリンピックで表彰台争いを繰り広げるロシア女子代表選手を紹介します。今回は、シニア1年目にして金メダル最有力候補と言われているカミラ・ワリエワ選手(以下「ワリエワ」)です。
“絶望”と呼ばれる理由と卓越した技術力
ワリエワは、2006年4月26日生まれの15歳。今季ジュニアからシニアに転向したばかりですが、ショートプログラム、フリースケーティング、総合得点の3つの世界記録保持者です。ライバルが「勝てない」と絶望してしまうほどの実力を持っていることから 、メディアやファンから“絶望”と呼ばれています。
そんなワリエワの得意技といえば、浅田真央の必殺技だったトリプルアクセルと2種類の4回転ジャンプ。しかも、両手を上げてジャンプを跳ぶのはバランスを取るのが難しいのですが、彼女は4回転を含めたほぼ全てのジャンプを両手上げで跳んでいます。難易度の高いジャンプでも両手を上げた体勢で跳べることは、ワリエワの最大の特徴であり武器といえるでしょう。
そして、どうしてもジャンプに目が行きがちですが、ワリエワ本人が「誰にも負けない」と公言しているスピンにもぜひ注目してほしいです。回転がすごく速い上に、柔軟性を活かしてとんでもないポジションで回っています。とくに、ショートとフリーの両方で演技終盤に見せるキャンドルスピンは必見です。
ワリエワは2本の手で音楽を表現することができる!
ワリエワのもう一つの魅力といえば、15歳とは思えない表現力! ……なのですが、「表現力」って分かりにくくないですか? 正直フィギュアファン歴25年の私も説明に困ってしまうくらい奥が深いんですよね。そもそもフィギュアの採点に「表現力」という項目はありません。「表現力」に一番近い項目は「パフォーマンス」と「曲の解釈」です。なので、個人的に表現力とは「いかに音楽をスケートで表現するか」「選手が感じた思いをどれだけ観客やジャッジに届けるか」だと思っています。
ふわっとしていて申し訳ないのですが、正解のない「表現力」に振り回されるスケオタは多いのです。観客はめちゃくちゃ盛り上がったのに点数がいまいち伸びず、ジャッジがブーイングされる……なんてことも多々あります。では、なぜ私はワリエワの表現力が高いと感じるのか。それは、一つ一つの動作の緩急の付け方が絶妙だから。バレエのようなしなやかな腕の動きが美しくて、いつの間にか“ワリエワワールド”に引き込まれてしまうんです。
とくに私がワリエワの表現力を感じるのがショートプログラムの演技です。フリースケーティングの「ボレロ」もインパクト抜群ですが、彼女のしなやかさや成熟した表現力が心ゆくまで堪能できるのは断然ショートの「In Memoriam」。切ないメロディが“無垢で神秘的な少女”というイメージの彼女にピッタリなんですよね。同プログラムで彼女は、“夢を象徴した蝶をずっと追いかけている少女”を表現しているのですが、手の動作のアクセントの付け方が素晴らしく、本当に蝶を追いかけているように見えます。なんなら蝶の幻覚まで見える。
北京オリンピック金メダル最有力候補は間違いなくワリエワ
2022年1月に開催されたヨーロッパ選手権では、ショートで90.45という異次元レベルの点数を叩き出し、女子史上初となる90点超えの快挙を成し遂げました。フリーではジャンプにミスがありましたが、ショートの点数で逃げ切り、現世界女王・シェルバコワや4種類の4回転ジャンプを跳ぶトゥルソワに20点以上の差をつけて優勝。シニア1年目にして試合のたびに世界最高得点を更新する予想以上の快進撃で、北京オリンピック金メダル最有力候補に名乗りをあげました。
こうしてワリエワの今シーズンの軌跡をたどってみると、2018年の平昌オリンピック金メダリストで彼女と同じコーチに師事する先輩でもあるザギトワと同じ道を歩んでいる気がします。当時15歳だったザギトワもヨーロッパ選手権で絶対女王だったメドベージェワを破って優勝し、平昌オリンピックで金メダルを獲得しています。
もちろん、オリンピックにおいて選手にかかるプレッシャーは想像を絶するものでしょうし、結果はまだ誰にもわかりません。けれど、現時点で北京オリンピックの金メダル最有力候補は間違いなくワリエワだと断言できます。彼女自身が持っている世界記録の更新はもちろん、何よりもオリンピックという大舞台でノーミスの“神演技”を見せてくれることを期待しています。