いとわズHADO部、サマーシーズンビギナーズカップ#7で準優勝!

ヒマすぎて数字を5万数えた日

朝の8時、始めたての警備員のバイトで、僕は茨城の山中に置いていかれた。指示は「車来たら止めといて」これだけ。終わりの時間さえも聞かされていない。

今でもハッキリとはわかっていないが、おそらくその先数百メートルの地点で工事が行われ、最も近い分岐点がそこだったということらしい。

30分経過して気づいたこと

とりあえず30分ほどその小道に立っていると、なんとなく気付いた。

「これ、車こねーな」

・・・。

なぜかはわからないが、そのときはそう確信し、実際に4日間でその道を通ったのは、ちょっと小さめの狸一匹だった。

スマホもなかった時代、とにかく暇。定時の17時に迎えが来るとは思うが、それまで本当の本当にやることがない。渡されていた弁当も暇すぎて朝の9時には完食してしまい、心の底から暇。

しかも、これが4日連続だというのだから気絶しそうになる。

寝るしかねー、そう考えたが季節は秋、11月。外で寝るにはさすがに寒い。とりあえず良い感じの大きさの石を見つけ、そこに腰かけた。今思い返すと、あの石の存在は本当にありがたかった。

余りにもの過酷な環境から僕は、初日の午前中にしていろいろなタガが外れてしまう。少しでも暇を潰すためと、ビートルズの「Let It Be」をまぁまぁの声量で歌い、その後も記憶だけを頼りにモーニング娘。の「LOVEマシーン」の振り付けを練習し、演技の中でも難しいと言われる「2度見」に挑戦、さらにはおしっこで「ヒマ」と書くなど、僕は誰も通らない山の中で、思いついたことを全部やった。

お昼時の一大決心

時計の針が午後1時を過ぎた時分、すべてに飽きた僕は大きな決意を固める。

よっしゃ! 100万ぐらいまで数えてやろー! しかも声に出して!

普通の人ならだいたい100ぐらいまでしか数字を数えたことはないはずだ。多い人でも1000が良いところだろう。なのに僕は100万。1000の1000倍の100万。そんなことしたヤツは他にいないに決まっている。

これはやりがいがある。そのときの僕はなぜかテンションが上がっていた。

ちなみに、「よっしゃ! 100万ぐらいまで数えてやろー! しかもちゃんと声に出して!」というこの決意セリフも、そこそこのボリュームで叫んでいる。

早速、

1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14・・・

と勢いよく数え始める。出だしは快調。山中に僕が数を数える声が響き渡る。

100を越えてもまだまだ良い感じ。

500・・・なんだか楽しい。

1000・・・おいおい1000越えちゃったよ。

この時点でほぼ未開の地。1000以上数えた人間なんてそうはいまい。身体の底が熱くなってくる。そして5000を越えたとき、新たな境地に辿り着く。

むちゃくちゃつまんない

ヒマすぎていろいろな感覚が麻痺していたが、数を数えるって本当につまらない。わかりきっている数字を口にしたところで、何の意外性もないし、なんの物語もない。残念ながら僕は、ここで数えることを断念した。

依存症になる

しかし、断念しようがしまいが暇は暇。現状に変わりはない。ほかにやることといったら、落ちている小石の数を数えるか、青々と生い茂った木々の葉を数えるぐらい。

何かしらの数を数えること以外はなんにも思い浮かばない。

僕は5分も経たないうちにもう1度続きを数え始めてしまう。そこからは、辞めては続けての繰り返し。こうなるともはや依存症。自由という名の不自由だ。

6101、6102、6103・・・

覇気の無い音が僕の口からこぼれ落ちる。

17時が過ぎ、初日の終わりを告げる迎えの車がくる。気力を失ったためか、数字は思うように伸びず、結果は1万足らずだった。20万ぐらい平気で越えると楽観視していたが、現実は厳しい。家に帰っても、脳みそが数を数えることでいっぱい。

テレビも漫画もゲームもあるのに、なぜか数を数えようとしてしまう。しかし、「山の中で数えないのはズルだ」という意味のわからない固定観念に縛られてしまい、数えたカウントをリセットする。そのせいで家にいるのにとてつもない暇を味わうことになってしまった。

カウント10000を超えた先

完全に頭がおかしくなってしまっている僕は、なんの使命感からか、2日目も3日目も、本や携帯ゲームも持たずに山中に出勤した。そのことを後悔しながら一心不乱に数を数え、その無意味さに挫折を繰り返していた。

ちなみに、1万1000を超えてくると、1つ数を数えるのに1秒以上を要してしまう。声に出すのもルールなため、噛んでしまうことも多々ある。1分で20数えられれば良いほうだ。これは、1万1000以上を数えたことがある人“あるある”と認定していいと思う。

そして迎えた最終日となる4日目の朝、数は確か3万とちょっとだった。

ここまできたら絶対に5万を越えるんだ!!

そう決意した僕は、朝から張り切って数を数える。

“成功して何になる?”
“誰も褒めてはくれないぞ?”

頭の中を駆け巡るド正論をを払い除け、ガムシャラに数を数え続けた。正直、この日の記憶が1番ない。もしかしたら一流スポーツ選手だけが時折入ることができると言われている“ゾーン”に突入していたのかも知れない。

異常なほどの集中力で数えつつけたが、お迎えがくる17時の時点で4万9500、わずかに5万に足らない。

“頼む! まだ来るな! もう少し残業させてくれ! 数え続けたいんだ”

不思議だ。あれだけ待ち望んでいた最終日のお迎えを、なぜか来ないで欲しいと願ってしまっている。

49971(もう少しだ)
49972(来ないでくれ)
49973(もう少し続けたいんだ神様!!)
・・・

そして運命の17時20分。

49998・・・

49999・・・

50000!!

っしゃーー!!! 達成したぞぉ!!

すでに暗くなった山中に歓喜の声がこだまする。僕はやりとげた。おそらく前人未踏の50000を数えた男になったのだ!!

しかし、ここで油断してはいけない。冷静にならなければならない。

50001、50002、50003・・・

50000ピッタリで終わりにした挑戦者がほかにもいるかもしれないので、念のため少しだけ越えておく。

目標を達成した僕は、少し冷静になった。この時間で迎えがこないのはなぜだ? もしかして最終日だから遅くなっているのか? それとも忘れられてしまったのだろうか?

気温はドンドン下がり、身体の冷えを感じる。街灯すらない暗闇の山中、一人佇む。ここで僕は、あることを閃いた。

6万狙えるんじゃね?

こうして僕は再び無我夢中で数字を数え、迎えが来たのは午後8時過ぎ。そのとき数字は、5万5300にもなっていた。目標の6万には届かなかったが、満足のいく結果だ。

帰りの車中、窓ガラスに映る僕の眼がバッキバキだったのを覚えている。

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