HADO 2018 CLIMAX SEASON閉幕

全裸のおばさんに「寒いでしょう?」と気を使われた

20歳かそこらのとき、ピザ屋のデリバリーバイトをしていたことがある。その店に入って1週間くらい経った頃、バイトリーダーに呼び出された。仕事もできて優しい人、だが、その反面ガサツで人との距離感の取り方がおかしいこの人が、僕は少しだけ苦手だった。

ー沢野、お前もそろそろ選別しておかないとな。前橋さんの家にピザを届けてこい

聞くところによると、その前橋さんという50代のおばさん常連客は、配達した男の顔面レベルによって、ピザを受けとるときの露出度が違うという。

イケメン→全裸

フツメン→下着

ブサイク→きたねーTシャツ

こんな感じだ。

全裸でお出迎えなんてわいせつ物陳列罪かなんかの罪に当たるのではないだろうか?

という当たり前の疑問が浮かぶが、そのピザ屋にいるのはベテランバイトばかり。前橋さんの存在自体が当たり前になりすぎて、その話をしても「野暮なこというなよ~」という空気が流れる。

どうやら、前橋さんに僕がどうランク付けをされるかにのみ、リーダーは興味を持っていたようだ。また、同じランク「きたねーTシャツ」の仲間が欲しいようにも見えた。
※リーダーがランク「きたねーTシャツ」かどうかは、僕の勝手な判断

とりあえず指示された通り、ピザを前橋さん宅へ運ぶことに。家はキレイでも汚くもない2階建てのアパートだった。

沢野

(どうせきたねーTシャツか、よくて下着だろうな)

モテ期とは無縁の青春時代を過ごした僕は、そう予想しながらインターフォンを鳴らして待っていた。しかし、中から出てきた前沢さんは

意外にも全裸だった。

沢野

(うお!!! 全裸だ・・・微妙に嬉しい!!)

一瞬、茶色い肌着を着ているのかと勘違いしてしまうほど黒ずんでいたその裸体は、お世辞にもキレイとは言えない。だが、認められたという喜びが若干上回った僕には、なんだかちょっと素敵なものに見えた。

それにしても、前もってある程度の覚悟を持っていたとはいえ、50代のおばさんの全裸には不思議な緊張感がある。経験したことのない空気、ある種の修羅場のような雰囲気が玄関には漂っていた。

沢野

(落ち着け・・・ここで慌てたりしたらダメだ・・・なんとしても”別に何とも思ってないですよ”感を保ち続けねば!)

妙な使命感を持ちつつ、平静を装いながらもピザを渡しお会計を済ますと、前沢さんが口を開く…

「どうもご苦労様です。お外寒かったでしょう?」

沢野

(オメーのが寒いだろ!!)

この言葉が言えない。簡単にはツッコませない異様な威圧感が前橋さんにはあった。

沢野

え、ええ。でも、下に何枚も着てるんで、へ、平気っす

無難な受け答えをして、僕はそのまま店に戻った。本当になぜだからわからないが、言いようのない達成感でいっぱいだったことを覚えている。

だが、そのことを伝えても、バイトリーダーは頑なに信じようとしない。なんとしてでも自分と同じランクに僕を引きずり込みたいようだった。

ー絶対嘘だよ! 絶対Tシャツ着てたよ!

ー乳首の色言えよ! 全裸見たならわかるだろ!

ー腹は何段? 何段腹だったのか聞いてんの!

リーダーは、前沢さんの全裸よりも見苦しかった。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です