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【インタビュー】伊藤麻希、“アイドル界のイロモノ”から“プロレス界のカリスマ”へ「死にたくなったら、伊藤の試合を見に来い!」

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約7分

アイドルグループ・LinQのメンバーだった伊藤麻希が、今は女子プロレスラーとして活動している上に“新時代のカリスマ”として注目を集めている――。そう聞くと、おそらく伊藤を知らない人は、「よほど運動神経がいい子なんだな」と考えることだろう。違う、逆だ。伊藤は、弱くて下手くそだ。

しかし、どんなにボロボロになっても、たとえ男子選手が相手だろうと、諦めず立ち向かっていく姿が、観客の胸を熱くさせる。

「死にたくなったら、伊藤の試合を見に来い!」

マイクでそう絶叫する彼女自身、アイドル活動の中で、うつ病を発症して、自殺まで考えた過去がある。

AKB48のパイ投げが“つまらなすぎて”アイドルに!?

「この前エゴサしたら、『伊藤麻希って、アイドル時代は汚れ担当だったのに、プロレスではカリスマになっている』って言われていて、私って汚れだったんだ……と初めて気づきました(笑)」

そもそも彼女がなぜアイドルになったのかというと、中学2年生のころ、「生きるのがつまらなすぎた」から。学校は好きじゃなく、趣味もテレビを見ることしかなかった。AKB48のバラエティ番組を見ながら、「自分だったら、パイ投げでこんなリアクションが取れるのに」と想像することが楽しかった。

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「パイ投げがつまんなすぎて、これは私が出たほうがいいと思ったんですよ。あと中3のとき、めちゃくちゃ好きな男の子が『俺は柏木由紀と結婚したい』と言っていたのもアイドルになった理由ですね。じゃあ私もアイドルになって、結婚しようと思いました」

2012年にLinQに加入して、晴れてアイドルとなった伊藤。しかし、すぐに壁にぶち当たることになる。アイドル界は、パイ投げで全力のリアクションをとったころで評価される世界ではなかったのだ……。

「自分はただ面白さを提供しているだけなのに、なんで全力になるとファンが減るんでしょう? いまだにわからないんですよね……。PV撮影のときも、自分が可愛く映るより、歌のメッセージを伝えるほうが優先だと思って、表情を崩してまで伝えるのがポリシーだったんですけど、それもよくなかったみたいで。全力でも報われないんだなと感じました」

うつ病になり「7月までに死んでやろう」

一時はタレント転身も考えたが、「自分はそこまで面白い人間じゃないと気づいた」とのこと。アイドルもバラエティタレントも向いていなかったが、それでも芸能活動を継続したのは、他の道をイメージすることもできなかったからだ。伊藤は、「私たぶん常識を結構知らないんですよ。バイトしていたときは、仕事できなさすぎて、嫌われていましたし」と自虐する。戻る場所もなく、進むべき道も見えず、伊藤は病んだ。

「2014年5月だったかな。うつ病になって、アイドル活動を休止したんですよ。もう生きる死ぬのことしか考えられなくなって、7月までに死んでやろうって計画立てて。でも7月にどうしても断っちゃいけない仕事が入って、生きざるをえなくなりました」

しかし、死を2カ月先延ばしにしたことをきっかけに、彼女は回復する。今ではファンから「伊藤ちゃんみたいに強くなりたい」という声も届くようになった。

「昔の自分って、弱音ばかりで、本当につまらない! 関わりたくない人間でした。昔と比べて、本当に弱音を吐かなくなりました。それって、プロレスと関わったからかもしれません。運動すると、やっぱり人間明るくなりますね。運動大事!」

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5月3日に行われた東京・後楽園ホール大会にて。タッグパートナーである瑞希と

伊藤にとって、プロレスの楽しいところとは何だろうか?

「ちやほやされるところかな!(笑) 私、自分って芸がないと思っていたんですよ。でもプロレスってキャラが大事だって聞くから、面白いキャラになりたいと思っていたんですけど、技術もないうちにそういうことしても早いから、結局そのままリングに上がることにしたんです。そしたら、『一生懸命だね』って応援された。プロレスって、“一生懸命”だけでいいんだって。そこが評価されるのが、すごく嬉しいです」

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新タッグ王者である才木玲佳&小橋マリカ組に挑戦表明

男色ディーノ戦の記者会見で叩かれた

伊藤は、2013年8月に東京・両国国技館にて開催されたDDTプロレスリングの大会で、初めてリングを踏んだ。リングデビューのときから、自分はプロレスが向いていると感じたらしい。

「初めてそこに立ったのに、伊藤コールが起きました。アイドルのときは、ソロパートを歌っても全然コール起きないのに(笑)。あくまで仕事のひとつくらいの気持ちだったんですけど、実際リングに立ってみると、『私これ向いているわ』と」

これまで一番反響があったのは、ゲイレスラーである男色ディーノとのシングルマッチ(2018年1月4日、東京・後楽園ホール大会)だそう。試合に向けた記者会見では、「こんなに可愛い伊藤をリングで好きなようにできるんだよ? 嬉しいに決まっているでしょ!」(伊藤)「本気で言ってる?」(ディーノ)というコミカルなやり取りを繰り広げたが、試合内容は一転して緊迫した空気のものとなった。

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1月4日、東京・後楽園ホール大会での男色ディーノ戦

「クソシリアスな試合でしたよね(笑)。でも私は最初からシリアスで行こうと思っていたんですよ。会見のときに話したことが東女らしくなかったみたいで、むちゃくちゃ叩かれました。でも叩かれたことによって、こいつらを見返してやりたいって気持ちが沸いてきて、『本気の私を見せたい』と。それに、みんなが想像できる試合をしたところでつまらないじゃないですか!」

泥沼を行くのが伊藤のさだめ

筆者もディーノ戦を会場で観戦していたが、プロレスラー歴16年に及ぶディーノとの力の差は歴然で、何度もリングに叩きつけられる伊藤の姿を見て、「大ケガするんじゃないか。下手したら、死んでしまうじゃないか」と本気でハラハラした。捨て身でディーノに挑み続ける伊藤の雄姿は、多くの観客の心をつかんだが、なぜ彼女は本当に死ぬ気で試合ができるのだろう? 乱暴な言い方をすれば、プロレスなんて“たかがエンターテインメント”なのに……。

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ファーストキスを犠牲にした“リップロック”で、ディーノの動きを止めた

「うーん。でも私、死ぬ気でやることが一番簡単に人を感動させられる方法だと思うんですよね。だから深く考えず、『お客さんが盛り上がるなら、そうしよう』って感じで」

伊藤は、あっけらかんと語る。とはいえ、技術面は大きな課題。「努力は見せるものじゃない」という考えのため、SNSで「練習してきました」という報告をすることは一切ないが、体つきはかなりしっかりしてきている。

プロレスラー伊藤麻希は、どんな選手が相手だろうが、いつのまにか“その試合の主人公”になってしまう不思議な力を持っている。徹底した泥臭さが、“強大な敵に挑む伊藤ちゃん”という構図を自然と作り上げるのだ。

「そりゃ私も可愛い可愛いってちやほやされたかったですけど、されないんですよ。頑張ったところで。私は泥沼を行く方が似合うみたいだから、そういうさだめだと受け入れています」

現在の目標は、「新人のうちに、プロレス大賞新人賞を獲る」こと。最後に伊藤に、どんな人に自分の試合を見てもらいたいか聞いてみた。

「死にたい人に見てほしい。伊藤って、そういう人用のプロレスラーみたいなものじゃないですか。伊藤も死にたい気持ちはわかるから、なんて言っていいか難しい部分もありますけどね。でも死にたい人に見てもらえないと、私がプロレスしている意味がないと思っています」

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[box class=”box28″ title=”伊藤麻希”]
九州発アイドルグループ・LinQで活動し、2013年8月に開催されたDDTプロレスリングの東京・両国国技館大会にゲスト参戦。2016年12月に本格的にプロレスデビューする。昨年6月にLinQをクビになり、現在はプロレスをメインに活動中。

5月3日に行われた東京・後楽園ホール大会にて、瑞希とのユニット“伊藤リスペクト軍団”として、新タッグ王者である才木玲佳&小橋マリカ組に挑戦表明した。5月19日(土)13時より開催する東京・北沢タウンホール大会にて闘う。
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