我が家からわりと近場に競馬場がある。最近の競馬場は、大きめの公園としての役割も果たしており、食べ物だっていろいろある。子どもを遊ばせるのにもかなり便利だ。競馬新聞も読まずに名前や馬の顔を見て100円買って応援したりとか、そんなんだけで十分楽しい。
先日、臨月に入った妻を1人にしてやるため、僕は2歳の娘と友人と3人でその競馬場を訪れた。その友人というのが、何万ものお金を平気で溶かしてしまうクソ競馬狂。僕は、そいつの負けっぷりを1度は見学したいと常日頃から思っていた。
さすがは競馬狂、いろいろと期待を裏切らない
午前中、僕が娘と原っぱや遊具で遊んでいる間の数レースで、友人はすでに3万円を失っていた。
友人:おい、次のレースは2-7がおいしいで。お前も絶対賭けたほうがいい
さすがだ。
絵に描いたようなギャンブル中毒だ。いくら負けていても自信だけは失わない。このレースは前日の夜から徹夜で予想していたらしく、「このレースのために来た」としつこいので、僕もとりあえず300円ほど賭けてみる。
すると、友人が言う通り、本当に2-7がきた。300円は、一瞬で5000円近くに膨れあがった。そして友人もマイナス3万から収支を一気にプラスに持っていっていた。
すごい。人間が狂うのもわかる。しかし友人は、「当たり前や」と勝利の余韻には浸らずに次のレースを予想し始めた。そのクールな佇まいは、ただならぬ凄みすら感じさせる。
次のレースも友人の言う通りに購入すると、僕の300円は1000円になった。友人も順調に資金を上積みする。さすがは競馬に人生を捧げた漢だ。
友人:次がムズい。切れる馬が少なすぎる
どうやら友人の考え方は、良くない馬を予想からハズしていく消去法らしい。しばらくは無言で競馬新聞とにらめっこが始まる。僕と娘は、勝ったお金でソフトクリーム食べながら友人の様子を見守った。
友人:あかん。これきっついわ。全然わからん。このパターンは絶対負ける
絶対負けるなら買わなければいいのに…
しかし、そんなこと言ったって競馬狂にはどうせ通じない。僕は無言で見守ることにした。すると、ソフトクリームを食べていた娘がふいに一言呟いた。
_人人人人人人人_
> 4だねぇー <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
友人:4?お前、今4って言ったのか?
_人人人人人人人_
> 4だねぇー <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
友人:4…? でも、4は…いや、これ4あるで!! 悪くない! それに急に子どもが数字を言い出すなんてなんかあるに決まってる!決めた、4中心でいくわ!
友人は興奮していた。データよりもロマンを追い求める友人は、こういう勝ち方がしたかったのだろう。なんとなく、意味もなく、ただ、勝つ。そんな勝ち方が好きなのだ。しかし、娘に神秘のパワーなどあるはずもなく、あっけなく友人は敗れ去った。
友人:なんやコイツ! 子どものクセに運全然ないやん! かわいそうなヤツやで!
すごい言いがかりだ。
そもそも、平気で人の娘を“お前”だの“コイツ”呼ばわりできるのはこの友人くらいだ。文句を言ってやりたいところだが、明らかにかわいそうなのは一瞬で1万も溶かした友人なので、許してやることにする。
娘は「うきゃっきゃっきゃっきゃ!!」とヨダレを垂らしながら爆笑しているし。友人は「けっ、信じた俺がアホやった」と文句を言いながら次のレースの予想に没頭し始めた。
友人:次もムズイ。これは絶対負けるパターンや!
絶対負けるなら買わなければいいのに…(2度目)
なんだかかわいそうに見えてくる。そんな友人にまたしても娘がアドバイスを送る。
_人人人人人人人_
> 4だねぇー <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
友人:お前4しか言わんやん! 言うことなんて絶対聞くか!
_人人人人人人人_
> 4だねぇー <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
友人:4以外言えや!! 他の数字を…いやまてよ、これ4あるで!!
考えを改める友人。
友人:こいつ、もしかしてさっきもこのレースについて4って言ってたんちゃうか? だとしたらもう4絶対くるやん! こんなに4を連呼っておかしいやん! 4買うわ!
もはやロマンに呪われた男。そいつは、またしても4を中心に購入し、当たり前のように惨敗した。
友人:なんやコイツ! 普通子どもって不思議な力とかあるやん! アホやでコイツ!
ものすごい暴言だが、アホなのは明らかに友人なので許すことにする。娘もその様子を見て「うきゃっうきゃっうっ、ゲホッゲホッ!」と咳き込むほど笑ってるし。
友人:もうええ。ソイツは無視や。最終レース、ガチで予想するからほっといて
眼を見開き、より集中する友人。しかし娘は、またしてもアドバイスを送る。
_人人人人人人人_
> 4だねぇー <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
友人:お前4しか知らんやろ? もうええって4は! 絶対に買わんて!
さすがにロマンを追いかけるのをやめた友人。
_人人人人人人人_
> 4だねぇー <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
しつこい娘。
友人:知らん! 4なんて知らん!
_人人人人人人人人人_
> 4、6だねぇー <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
急に数を増やす娘。
友人:今4-6言うたで!? 今まで4しか言わんかったヤツが6言うたで! これあるで!
新たなロマンに色めき立つ友人。
_人人人人人人人人人人人_
> 3、4、6だねぇー <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
友人:3-4-6言うたで! 3連複か!? これおいしすぎるやろ…! だってありえんやん! 4しか言えない子どもが急に3、4、6って! もう間違いないやん!! …3-4-6買うで!!
友人はもちろん負けた。
娘は爆笑していた。ちなみに娘は、もともと10まで数えられる。それを告げると、友人が帰り際に一言。
友人:もうすぐ2番目の子ども産まれるんやろ? まだ数字覚えてないけど、そろそろ数字を覚えそうってタイミングで連れてきて
初めて口にした数字に賭けたいようだ。