人の結婚式になんて行きたくない。
1番の仲良しとかならともかく、「まぁ遊んでた時期あるな〜」ぐらいのヤツだったら金も時間も手間も惜しい。まぁ親御さんとの兼ね合いで呼ばなきゃいけないという事情があったりもするんだろうけど、それはそれでなんつーめんどくさい親御だよバカ! とも思う。
だが、最近では結婚式を挙げないという夫婦や、挙げるにしても本当に仲の良い友人しか呼ばないという夫婦が多くなっている。変に人間関係を気にするより、わかりやすくてすごく健全だ。
しかし、問題は“本当に仲が良かった”という線引きにズレが生じたとき。
結婚式に呼ばれた僕
先日、一通のLINEが届いた。
沢野〜俺6月に結婚式挙げるわ〜!つってもすげー小規模で、家族以外はお前と橋本しか呼ばないんだけどな!さすがにお前らには来て欲しかったからさ!招待状送りたいから住所教えて〜
・・・・・・誰!?
いや、ちゃんと記憶を辿ればギリギリ誰かはわかる。中学時代の同級生の米谷(仮名)だ。だが、米谷と僕は学校以外で会ったこともないし、仲良しだった記憶はない。そもそも中学卒業以来、一度も会っていないのだ。
連絡を取ったと記憶と言えば、数年前に中学の恩師が亡くなって学年全体のLINEグループができたときぐらいだろうか。と言っても、僕はそのグループで「葬式には参加できません」と一言投稿しただけで、米谷との絡みは一切なかった。
成人式の同窓会で遭遇している可能性はあるが、そこで喋った記憶はないし、いずれにしろ“結婚式に呼ぶたった2人の友人”という枠に収まる関係とは到底思えない。
まさかの展開に妙な恐怖感さえ覚えたが、意を決してLINE通話を試みることにする。既読無視するのも気になって精神衛生上良くないし、LINEの文章でやりとりしても理解できる気がしなかったからだ。
もしもし
ーおーひさしぶり! 元気だった? LINE見てくれたか? いやー懐かしい! なんかテンション上がってきたわ!
あぁ、そうだなぁ・・・
一言目から断るつもりだったが、米谷の圧に負けて言葉に詰まる。だが、それでもこのまま引き下がってはよく知らないヤツの結婚式に参加することになってしまう。
俺は今東京住んでるんだけどさ、米谷どこ? 東京? それとも茨城の実家?
ーいや、今転勤して福岡
行くわけない。
よくわからないヤツのために福岡なんて行くわけない。しかし、断る理由は得た。
福岡かー遠いなー。ちょっとキツイかも・・・
ー橋本は東京住みだけど来てくれるってよ
いや、そもそも橋本が誰だかわからない。米谷はともかく、橋本についてはまったく思い出せない。だが、怖くて聞けない。
米谷さ、たった2人しか呼ばないのになんで僕のことを誘ってくれたの?
ーいや、そりゃー俺と橋本と言えば沢野しかいねーだろ
なにその同じ釜の飯食ってたみたいな言いぐさ。僕は記憶喪失にでもなってしまったのだろうか?
しかし、大混乱中の僕の脳みそを、1つの遠い記憶が閃光のように駆け巡った。
(あっ!!! そういえば!!・・・いたぞ! 僕と同じ名字のヤツが!! 米谷はアイツと僕を勘違いしてるんだ! これですべてが解決だ!)
そういえばさー、米谷ってアイツと仲良かったよね。僕と同じ名字のタダシ! タダシと米谷っていつも一緒にいたような気がするよ
ー・・・タダシって誰だっけ?
なし崩し的に住所は教えたが、返事は先延ばしにしている。