いとわズ

人間の恐ろしさ~前編~

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約4分

うわ〜…見てはいけないもの見てしまった…

そんな経験、誰しも1度くらいはあると思う。僕にも忘れられない強烈な“人間の裏側”を見てしまったことがある。

かなり前のこと、金のない男友達と4人集まり、一軒家を借りて一緒に暮らしていた。仕事もろくにない僕たちは、とにかく暇だった。暇で金がないのだからバイトでもすれば良いのにそれもしない。日々リビングに集まり、ただ、みんなで遊んでいた。

スーパーファミコンをやったり、どこかで仕入れてきたなぞなぞを出し合ったり、人が食べている蕎麦に屁をかけてみたり、完全に無意義な毎日だったが、なんだかんだで楽しい日々だった。

そんなある日、ソシャゲ界に革命を起こした「パズル&ドラゴンズ」がリリースされた。当初は今ほど有名ではなかったが、暇を持て余した大人が4人。とんでもない早さでパズドラが我々の家に導入された。

ゲーム自体の楽しさももちろんだが、正直なところみんなでやっているということが楽しかったんだと思う。特に、大切な”魔法石”を使って他人が”ガチャ”を引く姿はたまらない。必死で溜めた魔法石が、一瞬でクズモンスターに変わってしまう瞬間は異様に面白い。いつしか、「見物人が2人以上いるとき」という謎の家ルールができてしまうほど、ガチャは一大イベントとなっていた。

パズドラを楽しむようになって2ヶ月ほどが経った頃、家の者の1名が「課金をしてガチャを引く」と言い出した。金もないし、課金の仕方もいまいち理解できていなかった僕を含めたその他3名には信じられない発想だった。

その男の名はS。Sは3000円のiTunesカードを手にしており、すでに課金済みだった。

金がないSが!

「金がないから動かない」と布団から20時間出ずに床ずれしたSが!!

我が物にしようと、人が食べている蕎麦に屁をひっかけてキレられたSが!!!

なんと、3000円という大金を賭けて勝負に挑んだのだ!

うおおぉおぉおお!!!

気合いを入れてガチャを引くS。しかし、結果は当然のようにゴミモンスター。Sは悔しそうにしていたが、僕たちはちょっと引いていた。

なぜならSは、25歳にして19歳の妹に借金をするクズで、みんなの家賃でパチンコに行ってしまうカスだったからだ。そんな状態でソシャゲ課金なんてもう狂人。僕たちは狂人が失敗するのを見たいのではない。常人が失敗するのを見たかったのだ。

これで僕たちは他人が引くガチャに興味を失った。そんな狂人が現れてしまっては、常人が良いモンスターを引こうがゴミを引こうが、どうでもよくなってしまったのだ。僕らは、Sに1つの大切な遊びを奪われてしまった。

「お前のせいだ」

「お前が変に目立とうとするから悪いんだ」

「とりあえず妹に金を返せ」

Sに思いの丈をぶつける僕たち。Sは反省したのか無言でその場を立ち去る。Sの存在を忘れた僕たち3人が、スーパーファミコンで「風来のシレン」に興じていると、10分ほどでSが戻ってきた。

さきほど同様に、無言で無表情。しかし、右手にはなんと3000円分のiTunesカードが・・・

あれほど言ったのに・・・

血族の名を出されてもなお、無駄な金の使いかたをするなんて・・・

唖然とする僕たちを尻目に、Sは無表情でiTunesカードのラベル部分を擦り出す。そして丁寧にそのカスを拭き取り、16桁のコードをゆっくりとiPhoneに入力していく。まるで毎日やっていることのよう、その姿は”当たり前”に見えた。なぜか僕たち、その光景をただただ見入ってしまった。

Sはなけなしの金で買った魔法石を注ぎ込み、無表情のままガチャを引いた。結果は、先ほどと同じくゴミモンスター。普通なら悔しがるところ、しかし、Sはなんのリアクションもせずに、無表情でスーパーファミコンのコントローラーを手に取り、無表情のまま「風来のシレン」をプレイし始めた。

あれ? なんだろう? さっきと違うこの緊張感…狂人の失敗は面白くないのに、狂人が狂人過ぎて失敗に無頓着になる姿は

…なんか面白い!!

一気に心を奪われた僕たちはハマっていた「風来のシレン」をやる気が起きず、その日は飯を食って早めに寝ることにした。

続く…。

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