いわゆる地下アイドルを応援していて、よく言われるのが、「もっと可愛い子はたくさんいるのに」「もっと歌やダンスの上手い子はたくさんいるのに」という言葉。
そんなの百も承知に決まってるだろ、バーカ。私が彼女たちを応援するのは、顔が可愛いからでもなく、歌やダンスが上手いからではなく、粗削りなライブの中に滲む生きざまに触れたいから。
同じことは、東京女子プロレスにも言えます。ただすごい試合が見たいだけなら、もっとレベルの高い団体はいくらでもある。そんな中で私が東女を追いかけるのは、やはりリング上に発露する彼女たちの生きざまに触れたいからなのです。
東女が5月3日に開催した、東京・後楽園ホール大会に行ってきました。
デスマッチのカリスマvsへなちょこ自称ヒーロー
そこまで期待していなかった試合が、すさまじい名試合だったりするのも、プロレスの面白いところ。第5試合、ハイパーミサヲと葛西純のエニウェアフォールマッチ(リング外でもフォールできる試合形式のこと。当然、場外乱闘が多くなる)がここまで笑えて泣ける試合になると誰が予想していただろう。
今大会に参戦する唯一の男性レスラー、葛西純といえば、プロレスリングFREEDOMS所属の“デスマッチのカリスマ”。昨夏、初めて葛西のデスマッチを見に行ったときは、試合後に指が9割がた千切れていて怯えました。一方、ハイパミことハイパーミサヲは、東女の中でもへなちょこ的な立ち位置。“東京女子プロレスの愛と平和を守るニューヒーロー”を自称しているものの、ネタ枠的な扱いを受けています。
当時ほぼひきこもりだったハイパミが、葛西もゲスト参戦していたDDTの路上プロレスをたまたま観戦したことによって、プロレスラーになることを決意した……という経緯あってのカードらしいですが、私を含む多く観客たちは、「この試合は何やるんだろうねw」くらいのテンションで受け止めていました。
そして試合開始、マイクを手にしたハイパミは、エニウェアフォールマッチにさらに「チョコシュー1袋食べ切らなければフォールカウント無効」という独自ルールを加えることを提案。ハイパミがひきこもり時代、生きるための最低限のカロリーとして、毎日チョコシューを食べていたことから生まれたアイデアらしいですが……くだらなすぎる!
でも、このバカ試合が妙に泣けた。LEDで緑に光る改造自転車で辺りを駆け回り、そのまま葛西に自転車アタックをくらわせようとするも、積み上げたパイプ椅子に向かって自爆するハイパミ。自転車で後楽園ホールの階段を駆け下りていくハイパミ。
葛西相手に、自分のほうが“キチガイ”コールをかっさらってしまうプロレスラーが他にどれだけいるだろう。ハイパミの姿は、今まで東女で巻き起こしてきた“笑い”のすべてを憧れの人にぶつけるかのように見えました。葛西も、20歳近く年下(推定)の女子プロレスラーの奮闘に敬意を示したということでしょう。手加減することなく、強烈な必殺技・パールハーバースプラッシュで勝利しました。
プロレスの物語はつねに流れる
葛西の試合後のマイクではありませんが、アイドルでもプロレスでも“誰かの人生が良い意味で狂う”瞬間に立ち会えたときは鳥肌が立つ。その人間を中心に視界がバチバチと光り輝き、こちらにまで火の粉が降りかかってくるような錯覚を覚えて、「ヤベー!」となる。
ゴーテンサン後楽園大会の中で、そんな瞬間があった試合は、ハイパミvs葛西純だけではありません。一度はプロレスラーを断念してリングアナウンサーとして活動していた愛野ユキのデビュー試合、JKレスラー・小橋マリカのタッグ王者戴冠でも、間違いなく人間の生の歯車が回りました。
もちろん、メインの山下実優vs辰巳リカも。団体のエースである現チャンピオン・山下と、デビューすぐケガで長期欠場という不運に苛まれながらも努力を積み上げてきた辰巳。大の仲良しでもある2人の試合は、「ここから這い上がる」という辰巳の執念を感じさせる内容でしたが、あと1歩のところで山下に敗北しました。
上記に挙げた以外の選手も、きっと他の大会で、人生が狂う瞬間を見せてくれるはず。そのとき、もしかしたら、「今考えてみるとゴーテンサン後楽園のとき……!」とつながるのかもしれない。プロレスの物語はつねに流れているのだから。
アイドルに対してもプロレスラーに対しても感謝したいと思っているのは、“人生が狂う瞬間”なんていう、現代人の約100年間の生涯の中でも早々あるものではないビッグイベントに立ち会わせてくれること。彼らの放つ命の火の粉を浴びて、「私も自分の人生をドライブしていかねば……」という気持ちにさせてくれることに日々感謝ですので、アイドルもプロレスラーも、あまりケガとか病気とかせず健やかに長生きしてね。