プロ野球クライマックスシリーズが始まった。今年の注目は、スバリ巨人がどこまで勝ち進むか? に尽きる。V逸の責任をとって高橋由伸監督が辞任する巨人が日本一になりでもしたら…。実際、14日に行われた第1ステージの2戦目で、菅野智之がヤクルト相手にクライマックスシリーズ史上初のノーヒットノーランを達成するという男気を見せ、チームにこれ以上ない勢いがついた。
正直、由伸の監督就任の経緯と退任の経緯を見ると、あまりにもかわいそうというか、悲劇の監督という印象しかない。キャリア的には長嶋監督、原監督になれるはずだった男だと思うので、せめてこのタイミングで日本一になって、少しはいい思いをしてもいいんじゃないかくらい思っている。
そうなると……例の議論が再燃するのは必至だろう。そう、「シーズン負け越しチームに日本シリーズ進出を許してもいいのか問題」「シーズン負け越しチームが日本一になっていいのか問題」だ。
借金4、勝率.486のチームがリーグ代表に?
とかくクライマックスシリーズはなにかと文句をつけられることが多い。シーズン3位までが、日本シリーズ進出をかけたプレーオフに出場できるという制度なのだから、当然下剋上もありうる。いやむしろ下剋上があることが前提の制度であるにもかかわらず、実際に下剋上が起こると「140試合以上戦ったシーズンの価値が下がる」といった批判が巻き起こる。
そりゃまあ1位チームのファンが面白くないのは理解できる。でも、元選手や有識者までも一緒になって「クライマックスシリーズは是か非か」なんて言い出すのはどうなのよ。シーズンスタートのときに問題視するならともかく、2位、3位チームが勝ち上がったときに騒ぎ出すなんて、ちゃんとルールに則ってプレーしている選手たちに失礼というほかない。
今年はさらに、下剋上問題に加えて新たな火種が加わった。セ・リーグ3位でクライマックスシリーズに進んだ巨人の成績が、67勝71敗5分けの勝率.486。つまり、1年間戦って負け越したチームなのだ。
2004年のパ・リーグのプレーオフ開始、2007年のセパ両リーグによるクライマックスシリーズ開始以降、勝率5割に満たないチームが3位に入ったケースは5回あった。2005年の西武(勝率.493)、2009年のヤクルト(勝率.497)、2013年の広島(勝率.489)、2015年の阪神(.496)、2016年の横浜DeNA(勝率.493)だが、いずれも日本シリーズ進出には至っていない。
今年の巨人は、クライマックスシリーズ進出チームとしては過去最低勝率、最多借金であるにもかかわらず、日本シリーズに行きそうな勢いなのである。だからこそ、「借金チームが日本一になっていいのか」なんていちゃもんが噴出しているのだ。
でもね。
「勝率5割」は均衡点ではない
ちょっと待ってもらいたい。「負け越し」になぜそこまでこだわるのか。確かに、同じリーグ内だけでの負け越しはまあまあカッコ悪い。しかし、実は2005年以降のリーグ戦において「勝率5割」はあまり意味を持たなくなっている。そう、セパ交流戦の存在があるからだ。
交流戦は、違うリーグ同士での対戦にもかかわらず、それぞれのリーグの年間成績にカウントされる。そして、交流戦でセ・リーグのチームは圧倒的に分が悪い。過去14年間の交流戦のうち、セ・リーグ6チームとパ・リーグ6チームに分けて勝敗を見ると、セ・リーグが勝ち越したのはたった1度だけ。13回はパ・リーグが勝ち越しており、年度によっては20以上もの貯金をパ・リーグが積み上げている。だからこそ、セ・リーグでは1位チーム以外全チームが借金を背負っていたこともあるし、月間勝率だけで見ると全6チームが負け越したなんてこともあった。
交流戦がある限り、リーグ内の勝敗の収支はプラマイゼロにはならない。今年のセ・リーグも、全チームの貯金と借金をなべるとトータルで借金11になってしまう。つまり、(リーグ内の比較における)「勝率5割」の意味は限りなく薄くなっている。「勝率5割」を基準にしたところで、極論を言えば計算上はリーグ1位チームだって勝率5割に満たない可能性があるのだ。
「借金チームがリーグ優勝なんておかしい」なんて言うのなら、そこまで考えて言ってほしい。そして、シーズンが始まる前に問題にしてほしい。交流戦は交流戦で賛否はあるが、もちろん楽しんでいる人も多いし興行として確立している。クライマックスシリーズだって、シーズン終盤のプロ野球への興味を劇的に引き上げた。だったら、そのシステムの中での勝ち上がりに、ケチなんてつけなくたっていいんじゃないかなあ。