そうそう、クレーでのナダルはこうだった。簡単に取れるポイントなんて1ポイントもない。ウィナー級のボールを打ち込んでるのに、ウィナー級のボールが返ってくる。相手がフェデラーだろうがジョコビッチだろうがそれは変わらない。でなきゃ全仏で10回優勝なんてできるわけがないのだ。
錦織圭が、マスターズ・モンテカルロ大会で準優勝。昨年夏に右手首を故障し今年2月にツアー復帰して以来、ほぼ完調と言えるまでに復活した。ついこの間まで、“徐々に”“一歩一歩”調子を上げている印象しかなかったが、今回の準優勝で相当自信を取り戻したはずだ。
その勝ち上がりが素晴らしい。初戦でベルディヒを撃破すると、3戦目でセッピを退ける。続く準々決勝の相手は、認めたくはないが最近のライバルと言わざるを得ないチリッチだ。4年前までは負ける気がしなかったが今や完全にチリッチの方が格上。すっかりトップ10ランカーになってしまった。つかチリッチが世界ランク3位!? …それを言ってもしょうがない。ともかく、復調は本物か、それともいい感じで来たところまたしてもチリッチに叩きのめされるか、錦織復活にとっての試金石だと思っていたところ、見事勝利。正直、今回はこの勝利で終わっていたとしても納得できたといえるくらいの大きな勝利だった。
ところがさらに、準決勝でなんとズベレフまでも破ってしまった。昨年完全に覚醒した21歳の怪物は、近い将来確実にトップに立つ逸材。手がつけられないときはフェデラーだってお手上げというくらいのプレーをする。そんな相手に対し錦織は、高い集中力とここぞの場面でのギアアップで対抗。最後はペースを自分に引き寄せ、価値ある勝利を収めてみせる。
決勝のナダル戦に、もうちょっとできたのではと思う人もいるだろう。実際最後は、もう何をやってもダメくらいのところまで行ってしまった。でもね。相手は“クレーのナダル”なんだよ。全仏優勝10回。モンテカルロも10回優勝してる。クレーではどんなトップ選手にとっても無理ゲーと言う相手なのだから、もう上出来といってもいいでしょ。
第1セットは、もしかしてイケる!?と思わせるくらいのプレーも見せてくれた。その流れをダブルフォルトでみすみす手放したのはいただけないけれど、それも含めナダルのプレッシャー。もう一度言うが、相手はクレーのナダルだ。錦織にとっては、手応えのほうが大きかったのではないか。
そしてもう一つプラス材料として言及したいことがある。それは、ほぼトップフォームを取り戻した錦織だが、フォアは100%ではないのではないかということだ。世界最高のバックハンドは随所に見られたが、フォアハンドに関してはこれまで見てきたような“信じられないような”ショットがまだないような気がする。ケガの影響は見ていて感じない。痛みを気にする素振りもない。感覚だけがまだ完全には戻ってはいないのか、もっと凄いショットが打てるはずという印象を受けた。
つまり。ここが錦織のベストではない。錦織なら、あの目を見張るようなバックのダウンザラインに匹敵する、誰にも打てないフォアのウィナーが打てるはずだ。これ以上ないくらいの結果をモンテカルロで収めつつ、まだ全部は出しきっていない。そしてそれは、故障期間を糧に以前よりパワーアップして錦織が戻ってきた可能性を示唆している。
これで、全仏への準備は整った。ナダルもフェデラーもジョコビッチも“絶対”ではない。この後のグランドスラム3大会は、非常に期待できるのではないか。今まで何度もそう思ってきたが、今回は結構本気で「今年こそイケるのでは」と思っている。