個人的な話になるが、大学時代〜20代後半までの演劇をやっていた頃、「演劇はもっとプロレスから学ぶべきだ」と考えていた。熱狂発生装置としての四角いリングは、舞台そのものだ。その周りには必ず観客の存在がある。観客に物語を提示するのではなく、観客と物語を共有する。そんなことがやりたいと思っていた。
その後しばらくプロレスとは縁のない生活を送っていたが、ももクロにハマったことでまたプロレスというワードをよく目にするようになる。ブレイク前夜のももクロはしばしば“演出がプロレス的”と言われていた。
確かにケレン味などプロレスへのオマージュが随所に散りばめられていたし、キャラクターの立て方、感情移入のさせ方もプロレスっぽかった。そこだけに魅力を感じていたわけではないけれど、ゴールデンタイムに放送されていたプロレスを通ってきた僕ら世代には馴染みやすい手法ではあったはずだ。プ女子なんて言葉が聞こえ始めたのも同じ頃。やっぱりプロレスには独特の磁場があるのだろう。
自分は熱心なファンではなく、ごくたまに誘われて後楽園ホールに足を運ぶ程度の人間なので、最近のプロレス事情にはまったくもって疎い。それでもアメトーーク!のプロレス関連の回を見るたびに、ちゃんとプロレスのことを知りたいという思いは募っていた。
同時に、ハマるのも怖いなという感覚もあった。恐らくプロレスは、追い続ければ追い続けるほど楽しめるエンターテインメントだ。なにかにハマりたての時ほど楽しいものはない。自分は、好きになるからにはどっぷりハマりたいタイプ。そう考えると、闇雲に足を踏み入れていいものかどうか躊躇する自分もいた。
そんなとき、うちの若手女子社員がプロレスを勉強すると宣言した。周囲にいるらしいプロレス好きおじさんたちの助けを借りつつ、彼女は着実にプロレスファンへの道を歩み始めた。それが、『いとわズ』でも観戦記を書いている原田だ。
その原田が、満を持して『いとわズ』でプロレスを特集したいと言ってきた。編集長がHADOを『いとわズ』に持ち込んだのを見て勇気を得たらしい。
原田:みんなで1つのことをやるのは楽しい。プロレスもみんなで観に行きましょう!
彼女が最初の取っ掛かりとして選んだのはDDTという団体だ。その中でも、東京女子プロレスを取り上げたいのだという。それは、自身もドルヲタである原田が、アイドル好きが多い弊社のスタッフの状況を鑑み「アイドルファンなら東女は絶対楽しい」との持論を実証したいかららしい。
確かに、アイドルファンが次に推す対象としてのプロレスという切り口なら、『いとわズ』が取り組むのはおもしろい。ここは、原田の提案に乗ってみるのもいいかもしれない。
東京女子プロレスの魅力を簡単に教えてもらえる? 軽い気持ちでそう原田に聞いてみたところ……
原田:ドルオタの中でも、アイドルに対して単純な可愛さというより、人間模様とか成長ストーリーを求めているタイプは絶対東女を見るのがいいんですよ。もともと私は、大手事務所所属のアイドルよりも、いわゆる地下アイドル、野良犬みたいな女たちを見守るのが好きなので……。女同士がバチバチしている感じが、初めて東女を見たときから「これは絶対ハマるやつだな」と感じました。
原田:そもそも自分が容姿にコンプレックスを持っているタイプなので、可愛さ一点突破でスクールカースト高めな雰囲気のアイドルは、少なからず「住む世界が違う……」と気おくれしてしまう部分があります。その点、プロレスの世界は、“マイクパフォーマンス”が重視されているのがいいですよね。いくら可愛くても、しゃべりが達者でないとダサいという共通認識が存在する。MC重視のドルヲタとしては、好きなタイプの女子ばっかりじゃんと理想郷を見つけた感覚です。
原田:要するにガツガツした女が好きなんですよね。絶対何かを成し遂げてやるというガッツを持った女のほうが、応援しがいを感じるんですよ。お前がそれだけがっつくなら、私も同じCDを何枚でも買うよ! というか。でもやっぱりアイドル界だと、「女子がガツガツしている姿は苦手」というヲタクも一定数存在するわけじゃないですか。いくら人気アイドルだとしても、数万円するバッグを持っているのは引いちゃうみたいな。私は推しには野心を燃やして、ガンガン上り詰めて、メイクマネーしてほしいタイプなので。だからプロレスのバチバチぶつかっている感じ、野心をむき出しにしている感じが、ファンからも「やる気がある」と評価されているのは、なんか健全な印象を受けて、大変好感が持てます。
原田:とはいっても、東女は選手同士のイチャイチャだって非常によろしい。プライベートでもご飯食べに行ったりして、こいつら可愛いな……と思います。そんなイチャイチャした人間同士が、リング上では本気で闘うんですから、これはもはや百合ですよ。女同士の激しい感情はすべて百合です。今まで百合には興味なかったんですが、東女(特にみらクりあんずと、どらごんぼんば~ず)を見て、初めて「百合って尊い……」と感じました。
原田:社長もご存じだと思いますが、自分は感情をあまり表に出すタイプではないので……。だから、リング上で選手たちが泣き笑いするのを見ると、ものすごくキラキラしているものを目の当たりにしている気持ちになります。人間の感情、エモーショナル。
原田:あとは物販があるのもいいですよね……。男子プロレス団体だと、やはり選手のサイン会は「今日という日の記念に、憧れの選手にサインをいただく」という感じになって、会話もそこそこに、とりあえず“サインをもらう”という場になっているイメージなのですが、東女のサイン会は、アイドル現場と同じく“サインを書く間、好きな女の子の時間を独占できる”という目的で参加しているファンが多い印象。選手も積極的に話題を振ってくれるから、嬉しいよね……。
原田:というわけで、女の野心が好き&接触厨である私としては、東女は天国のような現場です。アイドルでいうと、BiSとか、あと数年前のでんぱ組.incが好きな人はハマる可能性高いんじゃないですかね。あとは、せのしすたぁとか、生ハムと焼うどんとか。むきだしの荒々しい部分も残したうえで、エンターテインメントに昇華している感じというか、ファンが介入する余地のあるグループ。
そんなアイドルが好きな人は、だまされたと思って東女を見てくれ!
わ、わかった。やります。やりましょう!
そんなわけで、『いとわズ』、東女を特集します。