アイドル好きなら、だまされたと思って東京女子プロレスを見てくれ。
筆者はいちオタクとして日ごろそのように訴えているのだが、ふと思った。
東女側も運営面で、ドルヲタを少なからず意識しているのではないか――?
試合後の物販ではチェキ会を行い、今年1月にはアイドル×レスラーユニット“アップアップガールズ(プロレス)”がデビューを果たした。
東女の代表を務める甲田哲也氏も大のハロー!プロジェクト好き。東女とアイドルの共通点について、甲田氏に語ってもらった。
アイドルブーム真っただ中に旗揚げ
―“ドルヲタ”的なメンタルを持った人に喜んでもらえるように、ということは運営面でも意識しているポイントなんでしょうか? 応援用のペンライトも販売されていますが……。
「ペンライトに関しては無関係ですね。あれは、DDT(東女と同じDDTプロレスリングが運営する、男子プロレス団体)の方で、NωA(エヌ・ダブリュ・エー)っていう男子アイドルグループを作ったんですけど、それの在庫がいっぱいあったから、『東京女子ではけさせろ』と(笑)」
―そんな理由!
「とはいえ、東京女子とアイドル文化が近いのは事実です。そもそも旗揚げしたばかりのころ、練習生が3人しかおらず、どう頑張っても2試合しかできなかったために、いわゆる地下アイドルの方々を興行に呼んでライブしていただいていました」
―普通なら「他団体のレスラーを呼ぼう」という判断になりそうですが、アイドルを呼ぶことにしたんですね。
「むしろ、『他団体から呼ぶのは止めよう』と判断したんです。選手の貸し借りをしたら、結局どこの団体を見ても似たような顔ぶれになって、東京女子の色が出ないし、団体同士でファンの奪い合いになってしまう。それよりは、女子プロレスのファンと全然違う方々に見ていただいて、他団体とは違う客層を作っていきたいなと。
アイドルと女子プロレスで共通するところもありますし、2013年当時はちょうどアイドル戦国時代だったので、高木から『よろしく!』と任されました」
―アプガ(プロレス)の他にも、AKB48グループがプロレス興行を始めるなど、アイドル文化とプロレス文化が近づいているのを感じます。甲田さんから見て、女子アイドルと女子プロレスには、どこに共通点があるとお考えですか?
「やっぱり、“技術などは未熟でも頑張っている子たちを応援して、成長の過程を見守る”というところですね」
「試合後に少しだけやるよ」じゃない物販を
―アイドル文化を意識して、東女に取り入れたものがあったら教えてください。
「5年くらい前の女子プロレスだと、撮影会ってポラロイドカメラを使っていたんですよ。でもアイドルって、みんなチェキを使いますよね。小さいところにメッセージをぎっしり書き込むのがいいなと、東京女子でもチェキを使うようになりました。ポラだと大きすぎて、ちょっと味がないんですよね」
―東女の選手の方々は、物販でもすごくアイドルっぽい対応ですよね。お客さんの名前を積極的に覚えようとしてくれますし、自分からどんどん話しかけてくれる。
「地下アイドルって、ライブ50%、物販50%の力の入れ方だったりしますよね。それってプロレス団体としては抵抗があることかもしれませんが、東京女子も『試合後に少しだけやるよ』じゃなくて、それくらいの気持ちで物販に力を入れようと思ったんです」
―選手の方々に、物販でのファン対応については、何か指導されているんですか?
「山下実優たち第1期生の次に加入してきた、のの子、辰巳リカ、坂崎ユカたちは、夏の魔物(ミュージシャンの成田大致が主宰する音楽ユニット)系列のユニットで活動していたので、アイドルの物販文化を知っていました。スタッフが指導したというより、彼女たちから、今みたいなやり方が広がっていきました」
女子プロレス界が抱える人材問題
―ところで、アプガ(プロレス)は、どのように始まったプロジェクトなんですか?
「アプガのプロデューサーさんがプロレス好きで、何度かアプガとDDTでコラボしているんです。そこから、企画のアイデアが出て、高木も『いいですね、やりましょう!』と言って……みたいな流れがたぶんあって、東京女子に回ってきた感じです」
―また、高木さんから突然任されるような形で(笑)。甲田さんとしても、アプガ(プロレス)のデビューには乗り気だったんでしょうか?
「もちろん。女子プロレス界全体で、練習生不足が大きな問題になっています。東京女子では、伊藤麻希や才木玲佳のように芸能活動をしている子たちがリングに上がってくれる流れはあったんですが、いちプロレス好きから志望してきてくれた子っていうのは、黒音まほ以来2年くらいいませんでした。アイドル業界はたくさん応募が来るらしいんですけど、やはり女子プロは厳しいんですよね」
―アイドルに憧れている子に、「アイドルと女子プロは近いものがある」ということを示せたら、人材不足もまた変わりそうですね。しかし、アイドルがリングに立つことに戸惑うファンはいなかったのでしょうか?
「とくに反発はありませんでした。アイスリボンさんという女子プロレス団体でトップの藤本つかささんは、もともと芸能界に憧れていたところに、だまし討ちみたいな形でプロレスラーになった方なんですが、結局10年くらい活動しています。
どの団体も人材確保は工夫している部分ですし、きっかけはどうあれ残る方は残る。『誰でもリングに上がるのは許さない!』という考え方の女子プロレスファンは、もう少数派みたいです。あと自分としては、実はアプガ(プロレス)こそ女子プロレスの王道だという感覚があって」
―なぜ王道なんでしょうか?
「メンバーは、1人が18歳で、残り3人もまだ20歳。個人的には、やはり女子プロレスは若くてかわいい子がやるのが王道だと思っているんです。かつて全日本女子プロレスは、25歳定年制を採用していました。当時ブームで練習生に困らなかったから可能だったことなんですが、やはり、それが王道なんじゃないかなと。野球って、ご覧になりますか?」
―なんとなくは。
「野球でいうと、ピッチャーが速い球を投げるっていうのが一番の王道なんです。まず速い球があって、そこに変化球を加えるから、相手を惑わせることができる。なので、まず王道を抑えたうえで、悪役とかベテランがいる状態が面白い。
若くてルックスのいい子が一気に4人もデビューしたのは、すごく東京女子にとってアドバンテージになることだと思います。アプガ(プロレス)というのは、女子プロレスの王道なんです」
[box class=”box28″ title=”甲田哲也”]
NEO、アイスリボンといった女子プロレス団体に携わり(NEOでは代表も務める)、2012年6月、DDTプロレスリングが創設した東京女子プロレスの代表に就任。ごくたまに選手としてリングに立つが、その際は、モーニング娘。’16「そうじゃない」を入場曲に使用する。
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[tensen]
後編では、東女の今後について語ってもらった!
東京女子プロレスは、5月3日(祝)12時より東京・後楽園ホール大会を開催。チケット情報などは公式サイトをチェック!