チョウ:もうすぐ30歳になるのですが、いまだに精神性が幼稚で、貯金も全然ありません。僕はどうしたらちゃんとした大人になれるでしょうか?
原田:人間性を変えるためには、強烈な体験をするのが一番手っ取り早い。『ヒルズ・ハブ・アイズ』を見て元気を出せ! そして砂漠に行け!
いまいち空気の読めていないガチめな相談をした僕は、いとわズ編集部の先輩である原田さんの回答を受けて早速『ヒルズ・ハブ・アイズ』を鑑賞しました。たしかに強烈な映画でした。
結論から言うと、あまり元気は出なかったし砂漠がめっちゃ怖くなったし、やっぱり大人になるのは簡単ではなさそうです。でも、そのかわり千鳥のノブになることができました。原田さん、アドバイスありがとうございました。
稀代の大クセ映画、『ヒルズ・ハブ・アイズ』
間違っていたら謝るしかないんですけどこの映画、たぶん真面目に見たらダメなヤツですよね?
なんせ冒頭からクセがすごい!
まったりとしたカントリーソング「More and More」に乗せて、核実験の映像が繰り返し流されるオープニング。その合間に挿入されるのは枯葉剤の被害者の写真……。
大クセじゃ!
子どもたちの写真をあんなふうに使うのは倫理的に許されるのか? そもそも「核実験で被爆して奇形になってしまった食人族」という設定は相当ヤバくないか? 日本では公開が一時中止になるなどの騒動を経て2007年に劇場公開されたそうですが、原発事故の後だったら確実にアウトだったんだろうな、と思いました。
こんなインモラルな映画を真剣に見続けたら心がえぐれてしまう。とっさの防衛本能によって開始5分で脳内の千鳥のノブが覚醒した僕は、彼の言葉に耳を傾けながら『ヒルズ・ハブ・アイズ』を見ることにしました。
私の頭の中の千鳥のノブ
元刑事のボブとその妻エセルの銀婚式を兼ねた家族旅行で、カリフォルニア州サンディエゴへとトレーラーを走らせるカーター一家。その道中、ニューメキシコ州の砂漠のど真ん中で立ち往生し、件の被爆した食人族に襲撃されるというのが『ヒルズ・ハブ・アイズ』のざっくりとしたストーリーです。カーター一家が飛行機ではなく車での移動を選んだ理由は「ボブが砂漠好きだから」。頭の奥の方から千鳥のノブのしゃがれ声が聞こえてきます。
バカか!
主役は銃が嫌いな民主党員、ボブの娘婿のダグ(アーロン・スタンフォード)。最初は原田さんのアドバイスに沿って、彼の成長譚として『ヒルズ・ハブ・アイズ』を見てみようと思っていました。でも、そもそもダグは結婚もしているし幼い娘もいる。最初からすでに「ちゃんとした大人」の要件を満たしているじゃないですか……。
わしゃどうすればええんじゃ!
ちなみに作中にはほとんど出てきませんが、ダグのフルネームはダグ・ブコウスキーだそうです。
なんやそのイキった名前は? 詩人か!
そんなダグですが、ちょっと間抜けで頼りないところがあるのも事実。助けを呼びに出たはずが大きなクレーターに辿り着き、そこが核実験の跡地であることにも気付かずにクマのぬいぐるみを拾ったり、ウキウキで新品の釣り竿(一応、あとで使う)を持ち帰ってきたりします。
ええから捨てえ!
夜になっていよいよ惨劇シーンが開幕。僕はノブの名ツッコミのひとつ、
ウォーキング・デッドくらいおるな!
を使うタイミングを今か今かと待ちわびていたのですが、食人族の襲撃はゲリラ戦的かつ散発的。どうやら人海戦術を用いるタイプではないようです。そのわりにはいちいち詰めが甘い……。
全力でやれえ!
義父と義母、そして愛する妻を惨殺され、幼い娘までさらわれたダグは、犬のビーストとともに木製バットを握りしめて食人族のアジトである廃村に潜入。わりとあっさり娘を発見したものの、不意打ちを食らって監禁されてしまいます。しかしこれまたあっさり復活&脱出。なんなのだろう、この特に意味のないくだりは……。
ただの鈍痛が来ただけ!
その後、斧を使う強そうな人との戦闘に突入。ボコボコにされ、
地下格闘技チャンネルか!
指まで落とされてしまうダグでしたが、斧の人が油断したスキを突いてなんとか勝利。顔も服も血まみれで
シャアぐらい赤いやん
穏健な民主党員の面影はもはやどこにもありません。
敵の中で唯一の善玉・ルビーの協力もあって、なんとか娘を取り返したダグ。「映画の序盤とラストで別人のような佇まいになっている」と原田さんのアドバイスにありましたが、たしかに仰る通りです。圧倒的な成長を遂げたダグに、僕とノブからこんな言葉を贈りたいと思います。
人でも殺めてきたんか?
人生か!
映画が終わるころには完全に脳内の千鳥のノブと元の人格が癒着・結合し、僕もひとりのノブになっていました。これを成長と言っていいのなら、『ヒルズ・ハブ・アイズ』を通じて僕も成長したのかもしれません。
成熟と喪失。家族を喪ったことでダグはたしかに覚醒しました。でも本当なら、そんな悲劇は起こらないほうがよかった。僕だって、別に最初から千鳥のノブになりたかったわけではない。でも、それが人生ですよね。僕は自分が思い描いていたような「ちゃんとした大人」にはなれなかった。
でも千鳥のノブになることはできた。
そんなわけで、今後は千鳥のノブとして頑張って生きていこうと思います。