5月に東京ドームで行われたももクロの10周年記念ライブは、「2011年のももクリ」「国立」「極楽門」と並ぶほど重要なライブとなった。4人となったももクロが見せたパフォーマンスは、「1人減った」とは1ミリも思わせないどころか、パワーアップしてさえいる。ゴージャス感を打ち出した演出も相まって、5人のときより華やかに、濃密になっていた。
間違いなくこのライブのハイライトだった“あーりんのゴリパン”もそうだが、本当にももクロは逆境をチャンスに変えるのがうまい。「マイケル・ジャクソンの2分間か?」「ここでソロか?」と観客を戸惑わせるほどのあーりんのタメ、その間の不敵な笑みからの、まさかのゴリパン。あのときの大歓声以上の熱狂を俺は知らない。文字通りドームが揺れていた。すべてのモノノフに「ああ、ももクロにはあーりんがいるんだった」と思わせたあの瞬間、すべてのモノノフの魂は浄化された。
春のライブを挟んではいるが、この短期間でここまで仕上げるのは並大抵のことではないはずだ。そこには、東京ドームの位置付けに対する明確なビジョンの共有があったのだろう。
同時に、杏果がこのステージに立つことが絶対に許されなかったのも理解できた。いくら本人たちが「5人で10周年の区切りを迎えたかった」と言っても、その後で1人抜けてしまうというインパクトは大きすぎる。是が非でも、この東京ドームを新章スタートにしなければならなかったのだ。それは、決して綺麗事にせず真正面から杏果との決別を宣言した最後の4人のスピーチにも表れていた。このライブを見て、そしてあのスピーチを聞いて、それでもなお今後のライブに緑色のものを身に着けて参加する人間がいたとしたら、そいつは人の心を持たない人非人に違いない。それほど強い意思を示した、大きな節目となるライブだった。
しかし。
そのライブに参加したからといって、今年1月の出来事を消化できたわけではないのもまた事実である。現在の、そして未来への視界には一点の曇りもない。ただ、でも、まだ、杏果卒業を相対化するには至っていないのだ。この心の“澱”を溶かすにはどうしたらいいのだろう。しかも、俺は根に持つタイプだ。ソフトバンクに行った内川聖一のこともまだ心の底からは応援できていない。俺はいつか、心に何の痛みも感じることなく5人時代の映像を観ることができるようになるのだろうか。
なぜこのタイミングで白石晃士?
そんな俺の悩みに対し、原田が示したソリューションが『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!FILE-04 真相!トイレの花子さん』だった。基本、あいつは性格が悪い。否、人の心を持たない人非人だ。『コワすぎ!』シリーズの監督は白石晃士ではないか。白石晃士といえば、Zがつく前のももいろクローバーが初主演したホラー映画『シロメ』(2010年公開)の監督。そして、『シロメ』は同映画の呪いで早見あかりが脱退したと言われているいわく付きの作品なのである。
フェイク・ドキュメンタリー形式をとる同作には、ももクロがももクロとして出演している。ある廃校に“シロメ様”というこの世のものではない存在がいて、願いを叶えてくれる一方でこれまでに何人もの人が地獄に連れ去られている——そんな都市伝説があった。2010年当時まだ駆け出しのアイドルだったももクロの6人は、(当時は夢だった)紅白出場をお願いするため、番組の企画でその廃校を訪れる。そこで恐ろしい体験をしつつも、無事紅白出場を祈念することに成功したももクロ。しかし、霊感の強い早見あかりだけがシロメ様の呪いにかかってしまっていた——。
早見がももくろ紅白出場の人柱となったとも読める物語展開。一方、リアルのももくろもその後、実際に早見の脱退(2011年)と紅白出場(2012年)を経験する。そんな現実との符合があったため、“『シロメ』の呪い”がファンの間でまことしやかに囁かれたものだ。
白石晃士監督の名前を見た瞬間、過去のそんなネタが頭に浮かぶ。杏果卒業を乗り越えるために、あかりん脱退を振り返ることになるとは。
『シロメ』は杏果にまで言及していた
そうそう、この作品には、シロメ様の都市伝説について語り、ももクロたちを本気で怖がらせる怪談師として吉田悠軌が出演しているのだが、1回目の登場でゲロを吐いて彼女たちの顔をこわばらせると、まさかの2回目の登場では自身が妖かしの存在に憑依されるという失態でまたも彼女たちを恐怖のどん底に叩き落としている。この映画を見て俺は、いくら役とはいえひたすら彼女たちを泣かし続けた吉田悠軌を許すことができず、以降憎み続けることに決めたのだった。
そんなことを思い出しながら、ついでだからと久しぶりに『シロメ』を見返して驚いた。
吉田悠軌演じる件の語り部が話す、シロメ様に関する怪談が、時を経てまたも現実とリンクしたのだ!
その内容とは、「シロメ様に願いを聞いてもらうことに失敗して2人の女子中学生が犠牲になった」というものなのだが、2人の名前が「あきちゃん」と「みどりちゃん」だったのである。「あきちゃん」が「あかり」の暗喩と言えるかはわからない。しかし「みどりちゃん」はもう逃げ場がないではないか。はっきり緑って言っちゃってるんだよ。そして実際にももクロから緑までいなくなった。
そういえば、ももクロが出場した2012年、2013年、2014年の3回の紅白のうち、2014年を杏果はインフルエンザのため欠席している。そのとき「来年は5人で」と誓ったももクロだったが、翌年の落選と紅白卒業宣言によりその約束は果たせないまま、杏果は卒業した。ももクロは最後の紅白で5人揃って歌えていない。『シロメ』と「紅白」と「脱退」の符合。結局『シロメ』の呪いは杏果にまで降り掛かっていたということだろうか。
で、何の話だっけ。ああ、『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!FILE-04 真相!トイレの花子さん』。結構おもしろかったです。