いちオカルト好きとして、飲み会などで実話怪談を集めることを趣味として細々続けているうちに、怪談を聞き出すコツが存在するのに気がついた。そのコツとは、“自分も怪談を話すこと”。
こちらが「止めても止めても水道から水が流れるホテル」や「夜な夜な、なぜかPerfumeが出演する音楽番組を突然流すテレビ」などの話をしているうちに、相手も「あっ、そういえば……」と思い出し、そこで出てきた実話怪談が「お前よくそんなインパクトある出来事をずっと忘れていたな」と言いたくなる内容だったりする。どうやら不思議な体験、恐怖体験というものは、記憶の底に沈みがちなものらしい。
というわけで自分は、実話怪談を引き出す会話の流れやテンポというものには一日の長がある。そして、オカルト好きらしくオカルト・パワーも駆使する! そこで用意した秘策のひとつが、針金ハンガーだった――。
※ルールはこちらを参照
ダウジング・ロッドの導きで怪談ゲット
ダウジングというものをご存知だろうか? 説明すると長いので、知らない人は各自ググッてほしいのだが、ざっくり言えば、棒や振り子を使って探しものを見つけ出す手法のこと。ダウジング・ロッドを作るのは意外と簡単で、針金ハンガーをL字に曲げたもので充分だそう。
我々のチームは、とりあえず新宿ゴールデン街で怪談集めをすることに決めていたのだが、万全を期すためダウジング・ロッドも用意。「良い怪談の持ち主に出会いたい」と念じながらロッドを両手に持ち、棒の先が指し示した店に入ることにする。
もちろん道行く人々からは不思議そうな目で見られるものの、ダウジングは国内の水道局員が水道管探しのために利用していたこともある由緒正しきオカルト・パワーだ。「はい? 地下水脈を探しているのだが?」という表情を浮かべて堂々としていれば問題はない。
不動産関連職Aさん(推定30代・男性)の話
ダウジング・ロッドに導かれて最初に訪れたのが、味噌汁飲み放題が魅力のバー。「私たち怪談を集めてるんですよ」と切り出して、バーテンとしばらく金縛りトークを続けていたが、正直「ただ金縛りにあっただけっていうのは、怪談未満だよな……」と思っていたところ、居合わせた男性客がなかなか良いのを持っていた! 年齢は30代といったところか。不動産関係の職についており、名前は仮にAさんとする。
御札だらけの空き家
すでに住民がいないことは知らされているが、一応確認しておかなければならない。引き戸に手をかけてみても、古い家で建て付けが悪くなっているせいか、鍵はかかっていない様子なのになかなか開かない。ただ簡単なチェックをしたいだけなのに面倒だ……。
苛立ちを込めて、思いっきり戸を引いたところ、Aさんの目に入ったのは壁中に貼られた御札だった。真っ昼間だったというのにAさんは全身に鳥肌が立ち、その場から走って逃げ出したそうだ。
「あとで調べてみたんですけどね。その家は老夫婦が住んでいたんですけど、おばあちゃんが自殺、おじいちゃんが孤独死して、その後は誰も住んでいないんですよ。……じゃあ、あの御札は誰が貼ったんでしょうね?」
その家を訪れて以来、Aさんの左肩からは謎の痛みがとれないという。
語り手の実体験:+5ポイント
50ポイントの大量獲得に成功!
いきなり良質な怪談に出会うことができて、私もチャロスも「これは勝つんじゃないか?」とニッコリ。ここで店を後にして、次にダウジング・ロッドに導かれて入ったのは、「人見知り克服」を謳い文句にするバーだった。
ちなみにチャロスは、今回が初めてのゴールデン街訪問とのこと。後輩がX JAPANやMr.Children談義で楽しげに盛り上がっている姿を見て、私もなんだか良いことをした気分になれました。
人見知り克服バーにいたBさん(推定30代・男性)の話
そんな少し懐かしめの音楽談義の中で集めた怪談。これは30代くらいの男性・Bさんが、実際に体験した話だそう。「オチがないんだけど……」と前置きした上で語ってくれた。
真夜中のドライブ、とあるトンネル
そこで彼らは、さらに奥多摩方面まで車を進めた。すでに深夜だったが、それが逆に気分を盛り上げる。真夜中のドライブを楽しんでいたところ、“あるトンネル”を入ったときに事件は起きた。
ドン、ドン、ドン!
……走行中の車を叩く音がしたのだ。Bさんたちは、不審な物音を「気のせいか、何かをひっかけてしまったのだろう」と片付けて、実際音はすぐに止んだ。しかし、次のトンネルに入ったとき、
ドン、ドン、ドン!
また、音がした。「これは何か故障したんじゃないか」と点検のため、トンネルを抜けたところで車を出て確認してみると、リアガラスにべったり手形がついていた。もうドライブどころではなく即帰ろうという話になったが、また同じトンネルを通る勇気はなく、わざわざ山梨方面に回って東京に帰ったそうだ。
語り手の実体験:+5ポイント
手形:-10ポイント
人見知り克服バーにいたCさん(推定50代・男性)の話
また、50代くらいの男性・Cさんが、引っ越しのため物件探しをしていたときの体験がこちらだ。
全室割引マンション
それで、ある新築マンションを見せてもらったんです。ただ、そこが結構な事故物件で……。ニュースにもなったんですけど、女の人が旦那さんを殺してバラバラにする事件があったんです。でも普通って実際に殺人があった現場か、せいぜい何軒か隣くらいまでしか家賃が安くならないじゃないですか。なんとそのマンション、全室割引だったんですよ!
もちろん少しだけ気持ち悪くはありますが、でも直接の事件現場じゃないなら無関係といえば無関係だし。やっと良いところが見つかったと思って、不動産屋さんに『ここに住みたい』と伝えたんです。
そうしたら、『これだけ仲良くなった人だから正直に言います。1カ月以内に出ることになりますよ。幽霊なんていないと思ってるでしょ? いますから』と言われてしまって……。
『私たちも即退去となったら手続きが面倒くさいんで』というリアルな理由で、なんと不動産屋に入居を断られてしまいました(笑)。
……あの家に住んでいたら、何が起こっていたんでしょうね?
現実に起きた事件が絡む:+50ポイント
※上記では地名などの詳細をボカしているが、調べてみたところ、実際にその地で事件が発生していることがわかった
上野で焼き肉を食べてニッコリ
ここで、オカルト好きの友人が上野の焼き肉屋で飲んでいることを知る。しかも聞いてみれば、飲み会メンバーの1人が実話怪談を持っているらしい! 新宿から上野に移動して、焼き肉屋へ……。「突然謎の飲み会に合流することになって、チャロスすまん」という気持ちになりながらも、ここまで酒しか飲んでいないので焼き肉を食べられてニッコリ。夏に焼き肉、ビールの組み合わせは心が豊かになりますねェ~。……何しに来たんだっけ? そうだ、怪談だよ!
上野の焼肉屋で飲み会中だったDさん(20代・女性)の話
音信不通になった恋人
とくに霊感のないDさんは何も感じていなかったのだが、入居時、息ができないほどの湿気がこもっていたのだけは印象に残っていた。引っ越して数カ月後、Dさんが1人で家にいるときにドアを叩く音がした。彼氏が帰ってきたのだろうか。しかし、ドアを開けてみると誰もいない。身を隠すような場所はないのに……。
そういえば、階段すぐ横の部屋だったにもかかわらず、誰も階段を上ってくる音は聞こえなかった。薄気味悪く思いながらドアを閉めると、再びドアが叩かれたのだった。
その次に住んだ方南町の物件もおかしかった。Dさんの首もとが一気に荒れてしまったのだ。皮膚科に行ってみると、医者から「それは何かの跡じゃないですか?」と言われたが、もちろん心当たりはない。薬を塗っても一向に治らないばかりか、どんどん肌荒れが手の形のようになっていった。
しかし、その後、実家に戻ると不思議とすぐ治った。それから方南町の部屋に行くことはなかったのだが、一度久しぶりに見に行ってみた。しかし、建物は火事ですっかり焼けて失くなっており、Dさんは、なんとなく気持ち悪さを感じたという。
語り手の実体験:+5ポイント
手形:-10ポイント
深夜の上野公園でこっくりさんをした結果……
ここまでいろいろと店を巡ってみた体感としては、「3人に1人は何かしら怪談を持っている」という印象。あと、編集会議の時点では「僕はそういう話ないですね……」と言っていたチャロスが、他人の怪談を聞いているうちに「あっ、そういえばこんな話ありました」と怪談をどんどん思い出していた。なんで今まで忘れてたんだよ! やはり、不思議な体験、恐怖体験というものは、記憶の底に沈みがちなものらしい。
Cさんの怪談を聞いて店を出た時点で、すでに時刻は23時近く。タイムリミットは24時までとはいえ、終電の時間を考えたら、そろそろゴールを迎えなければいけない頃合いだろう。
ところで、自分はこの記事の冒頭で、「オカルト好きらしくオカルト・パワーも駆使する! そこで用意した秘策のひとつが、針金ハンガーだった――」と綴っている。そう、ダウジング・ロッドはあくまで“秘策のひとつ”でしかない。もうひとつの秘策とは、こっくりさん。怪談キャノンボールにおいて、編集部員がレース中に心霊体験に遭遇した場合は150点が加えられる。心霊スポットでこっくりさんをすることで、大量加点を狙うのだ!
そのため私はレース出発前に会社で、こっくりさんに使う50音表をせっせと作っていた。1枚の紙にすべての文字を収めるのが難しくて、2回失敗した。
実は上野恩賜公園は、東京大空襲で亡くなった人々の仮埋葬地で、心霊スポットとしても有名。深夜の公園を訪れて、酔って片方どこかに落としてしまったせいで1本になってしまったダウジング・ロッドが指し示した場所でこっくりさんを執り行うことにした。
どうせなら後輩のためになることを聞いてやりたい。そんな優しい先輩心のため、「チャロスは今後どんな漫画を書けばいいですか?」とこっくりさんにたずねることにした。
…………。
何度呼びかけても返事がない。ただのしかばねのようだ。こっくりさんも夏は帰省とかいろいろ忙しいのかもしれない。もしくは、「夢を叶えたいなら自分の頭で考えなさい」というメッセージなのかもしれない。
我々チームが、ここまで獲得したポイントは45点。しかも真打ちである怪談にもなかなか自信がある。
これ、もう勝ち決まったでしょ。ありがとう、オカルト・パワー。