偉大なことを成し遂げるためには、ある種の不完全さが必要なのかもしれない。ロシア対クロアチアの準々決勝を見終えたとき、僕の頭に浮かんだのはそんな仮説だった。
ひとつの冒険が終わり、物語は続く
デニス・チェリシェフのミドルシュートは惚れ惚れするような一発だったし、怪我から戻ったアラン・ジャゴエフのセットプレーも素晴らしかった。そしてなにより、ソチのフィシュト・スタジアムの雰囲気は彼らにとって最高以上のものだった。なにかが欠けていたとは思わない。あらゆることは完璧に満たされていた。それでも、だからこそロシアは自分たちの大会に別れを告げなければならなかった。
どちらにとっても2試合連続のPK戦だったが、より満身創痍だったのはクロアチアの方だ。守護神のダニエル・スバシッチは筋肉系のトラブルでゴールキックすら蹴れなくなっていたし、チームの心臓であるルカ・モドリッチは疲労で老人のような顔になっていた。PK戦に臨むにあたって、延長後半に追い付いたホームのロシアに流れが傾いているのは明らかだった。
そんな状況でも、クロアチアがここで消えるイメージは湧かなかった。スバシッチとイゴール・アキンフェエフの比較やキッカーの充実度、ホームの大歓声といった諸々の条件を真剣に検討したわけではない。僕にはただ単純に、クロアチアの方がロシアよりもほんの少しだけ満たされていないように見えたのだ。いくつもの感動的なできごとを詰め込んだロシアの冒険譚は結末を迎える準備ができていたが、クロアチアの物語にはまだなにかが足りなかった。
スバシッチとアキンフェエフは1本ずつPKを阻止した。どちらも最高のゴールキーパーだ。勝負を分けたのは、延長後半に同点ゴールを決めてPK戦に持ち込んだ当事者、マリオ・フェルナンデスの失敗だった。つい数分前のカタルシスが、彼のキックに影響していたのは間違いない。素早い助走からシュートに至るまで、浮ついた気持ちを振り払おうという意識を強く持ちすぎていたような印象を受けた。
イバン・ラキティッチがアキンフェエフの逆を突いて激闘を終わらせたとき、ロシアには悪いが、クロアチアのW杯がもうしばらく続くことに安堵した。彼らにはまだ成し遂げるべきことがある。それがイングランドを打ち破って決勝に進むことなのか、あるいはもっと別のなにかなのか、僕にはわからない。ボロボロになりながらなんとか辿り着いた場所に、4年前のミネイロンのような悲劇が待ち受けている可能性だってある。それでも残りの2試合を戦うことで、クロアチアは自分たちの物語にふさわしい結末を用意することができるだろう。
「すべてが満たされ、そのすべてが出し尽くされたときに、自分たちがどこに向かうべきか初めてわかる」とイビチャ・オシムは言った。ロシアは決勝トーナメントで240分以上にわたってピッチに立ち続け、そして敗れた。彼らはすべてを満たし、すべてを出し尽くしたのだ。PK戦で敗れた悔しさは残り続けるだろうが、しかし、冒険譚としては期待以上の出来映えだったと言っていい。試合後、クロアチアのズラトコ・ダリッチ監督はこう語っている。
「よく戦ったロシア代表を祝福したい。美しい試合ではなかったかもしれないが、これはそういう戦いだった」