7月22日の横浜DeNA対阪神。試合の大勢が決した8回だったが、9番ライトでスタメン出場した梶谷隆幸が、ライトスタンドに豪快にホームランを叩き込んだ。
続く24日の中日戦。この日も9番に入った梶谷が、今度は初回に先制3ランをライトスタンドに突き刺す。結局横浜DeNAはその後失点を重ねて敗れるが、2試合連続で完璧なホームランを放った梶谷に対しスポーツ紙等には「恐怖の9番」の文字が踊った。
まじ勘弁してほしい。
セ・リーグに「恐怖の9番」は要らない
黄金時代の西武ライオンズには「恐怖の9番」と呼ばれた選手がいた。80年代は、3割近い打率に30盗塁もしてしまう辻発彦。後に1番を打って首位打者も獲る掛け値なしの名選手だ。90年代は田辺徳雄。打率3割打ってホームランも10本以上という、なんでこんな選手が9番なんだと誰もが思った好打者だった。
パ・リーグはDH制を採っており、セ・リーグと違い投手の打席の扱いにあれこれ思い悩むことがない。そのぶん、9番にはシンプルに打撃における優先順位の最も低い野手が入ることが多い。その中で上記のような成績を挙げてしまう選手こそが恐怖の9番にふさわしいといえるだろう。辻だって田辺だって、平野や秋山や清原や石毛や伊東がいたから仕方なく9番を打っていたのだ。
翻って梶谷はどうか。もともと、7番や6番、あるいは3番や1番といった中軸を担っていた実力者。確変を起こした2013年には77試合で打率.346、16ホームランを記録してすべてのファンをポジらせ、昨年も21ホームランを放っている。そんな、本来ならもっと上位を打ってしかるべきスラッガーをわざわざ9番に置いて「恐怖の9番」もあったもんじゃないだろう。梶谷よりいいバッターが8人いての9番なら納得いくが、今季のラミレスの「8番投手、9番野手」には必然性がない。
去年始めた「8番投手、9番野手」は、打撃のいいウィーランドをより上位に置きたいという理由があった。打撃不振に陥った倉本のプレッシャーを軽減して復調させるという意味もあった。目新しさもなくなったシーズン後半には「もういいよ」と思ったが、まあそれで日本シリーズまで行ったのだから去年まではいいとしよう。だが、今年もこれを続ける理由がどれだけ考えても出てこないんですよ。
打順が上位のバッターには、下位のバッターより多くの打席が回ってくる。一般的に、打順がひとつ違うと、年間で20打席近くの差が出るらしい。つまり、より多くの打席を回したいバッターを上位に置くのは、野球のルールが変わりでもしない限りは鉄則なのだ。先週末にNHK BS1で放送された『球辞苑』でもデータが出ていたが、1番から9番まで全打者の数字を並べてみると、打率もホームランも打点も見事なまでに全部9番バッターの数字が最下位となっている。“全9番の中で最も有能な9番”には価値はあるだろう。だが、その局地戦に目がくらみ9番に本来の9番ではない選手を置いたところで、トータルでの勝利にはつながらない。
今季の横浜DeNAはいまいち波に乗れていない。その原因が、昨年大活躍を見せた先発3本柱の不振や、投手にも野手にも続いた故障離脱にあることは明白だ。だがそれがようやく、7月25日に濱口が今季初勝利を挙げ、野手ではロペスと梶谷が復帰して中軸が揃った。守備の要・大和はまだ留守だが、1番に桑原が固定でき、2番にソトが入る現在の打線はだいぶベストメンバーに近づいてきたのではないか。
それでも、現時点ではまだチーム状態はいいとは言えない。連勝と連敗を繰り返すのが今季の横浜DeNAの特徴。いつまたズルズル沈んでもおかしくはない。
であるならば。まだ、なにかを変える余地はあるのではないか。それが、ラミレスが意固地になっているとさえ勘ぐりたくなる「8番投手、9番野手」だと思うのだ。昨季のように勝っているときに変えるのは勇気がいるし、得策ではないかもしれない。でも今のチーム状態は、変える大義名分がある。元に戻すには絶好のタイミングだと思うのです。
筆者はラミレスのことが大好きで、名将だとさえ思っている。その俺がお願いしているのだから、そろそろ考えてみてもらえませんか?