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怪談にも裏取りが必要!?作家・川奈まり子が案内する“ルポルタージュ怪談”の世界

今回の『夏のオカルト、怖い話』特集にあたり、編集部内で“怪談作家”について会議をしていたところ、どうにも他スタッフと話が噛み合わない。この違和感はどこから来るのだろうと探っていたところ、どうやら彼は「怪談といえば創作」、私は「怪談といえば実話」というイメージで話していたらしい。

「今は歴史資料などを通して実体験の背景を探った“ルポルタージュ怪談”が人気なんだよ」と伝えたら、「えっ、怪談に裏取りをするんですか?」と驚かれてしまった。

作家・川奈まり子は、そんなルポルタージュ怪談というジャンルを牽引する1人。彼女は、歴史モノやノンフィクションのような楽しみも与えられる怪談を追求している。

体験者からは「解放された」と感謝の声も

川奈のもとには、毎月10人ほどから奇妙な体験談が寄せられる。取材の流れとしては、まず“体験者”にTwitterのDMなどを通じて体験談を送ってもらい、そこから改めて電話や対面での取材を実施して詳しいことを聞いていくことになる。ほとんどの体験者たちは、もともと川奈のファンというわけではない。自らもそれなりの時間と手間をかけてまで、なぜ彼らは川奈に体験談を寄せるのだろうか?

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この間お話してくださった方は、小さい頃から親に『霊体験を人に語ってはいけない』と怒られてきたそうです。そんなことを他人に話したら頭がおかしいと思われて、友達もいなくなるし、お嫁さんも来ないよ……と。

周囲の反応が心配で、自分の体験を誰にも言うことができなかったという人は少なくありません。私は実際に心理カウンセラーの資格を取得したことがあるんですが、カウンセリングに近いのかもしれませんね。『誰にも話したことがないことを言えてスッキリした、解放された、供養になった』と言ってくださる方が多いです

しかし、川奈の作業は、体験者から聞いた内容を文章に起こして終わりではない。取材後、川奈は体験談の舞台となる土地の資料などを集めて、ときには現地に足を運ぶ。さらに調査を通じて、怪談と関連するような事件が過去に起きていたのが判明することも。そういった調査を経て、彼女の筆致は生々しさを増していく。

著者本人が選ぶ!“川奈まり子ブックガイド”

もともとは官能小説で作家デビューを果たした川奈だが、過去にはルポライターの経験もあり、自身のルーツとしては、現在メインにしているルポルタージュ怪談の方が近いらしい。実は川奈の父親は、中国古代の説話文学の研究者だった。説話文学とは、民間で代々伝えられた神話や伝説、民話などの物語のこと。その中には妖怪や幽霊が出てくるものも多く、川奈は幼いころから、それらの資料に親しんできたのだ。

川奈は、「私もともと人の体験談を聞くのが大好きなんですよ」と語る。

ライターとして働いていたときも、当時の写真や資料と突き合わせながら、ご老人の思い出話をまとめるような書籍の制作に関わっていました。体験談やオーラルヒストリーを書き留めるのが、めちゃくちゃ好きなんです。

たとえば、中国の志怪小説(六朝時代の中国で書かれた奇談・怪談のこと)はもともと口承伝説なんですが、4000年も前の人たちが語った話を、誰かが書き留めて今も残っているって、ロマンがありませんか?

『ひょっとしたら、この話も100年後まで残っているかも』と考えるとすごくやりがいを感じるので、私にとって、誰かの話を聞いて書くという作業は全然苦になりません

年に3冊という速いペースで怪談本を出版している川奈に、怪談初心者にもオススメの自作品を教えてもらった。

短くて読みやすいのは、今年5月に発売された最新作『実話奇譚 夜葬』(竹書房)です。怖いのが好きなら、同じシリーズの『実話奇譚 呪情』ですかね。こちらに収録されている“欠番の家”は、竹書房が主催した投票イベント『怪談最恐戦2017』で第4位に選ばれています。

あと、『迷家奇譚』(晶文社)は、オカルト・ルポとして私のルーツというか、自己紹介のような1冊だと思っています。また、『実話怪談 出没地帯』(河出書房新社)は、実際に現場を訪ねていく楽しみがありますよ(笑)。本当に訴えられるギリギリまで書いているので、『この辺かも』と当たりをつけて“聖地巡礼”すれば、怪談がより身近に感じられると思います

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“語られること”を求める怪談たち

怪談を収集していて、川奈自身は恐ろしい体験をしたことがないのだろうか? そうたずねると、『迷家奇譚』執筆時のことを教えてくれた。川奈は当時、山の手大空襲にまつわる話を集めていた。しかし、思うように調査が進まず、そうこうするうちに、山の手大空襲の話を入れなくても書籍のページ数が足りてしまった。

そのため「この話題は今回は抜きにして入稿しよう」と編集者と決めたのだが、その夜、自宅マンションの階段を降りようとしたら、突然出てきた手に左足のかかとをつかまれて、そのまま階段を転げ落ちてしまったそう。つかまれた足を見てみたら、手形がついていたのだった。また、川奈の自宅マンションがある表参道は、まさに山の手大空襲で大きな被害を受けた地域だった――。そこで急きょ、『迷家奇譚』に山の手大空襲についての記述を加えることになったのだと明かしてくれた。

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やっぱり語られたがっている物語というのがあって、それは表に出たがっているからこそ、私のところに届くのでしょう。その一件をきっかけに、一度書こうと思って取材した話というのは、なるべく責任を持って世に出そうと思うようになりました

怪談が意思を持っているということだろうか?

語られたがる怪談の逆で、語られるのを邪魔しようとしてくる怪談もあります。体験者さんに喫茶店で取材をしている最中、他の人がこぼした水がひっかかったり、ウエイトレスさんが食べ物をこぼしたり、相手に名刺を渡したら、名刺で指が切れちゃったり……。ひとつひとつは些細なことでも、あまりにも重なるので少し怖くなりました

一瞬で終わる怖さは、映像や舞台に勝てない

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怪談自体が語られることを求めているならば、怪談作家としての川奈の役割も、ただ読み手を怖がらせる以上のものを背負っているように思える。とはいえ、川奈が最優先にしているのは、あくまで“面白いと思ってもらえること”。怪談の裏取り・調査をするのだって、読み手を楽しませるための工夫なのだ。

怪談は人を怖がらせるものです。でも、いかにも怖がらせようとするような方法だけでは、大きな声を出せて照明も使える怪談師さんたちには敵いません。そのかわりとして、“読み物として面白い”というのを武器に勝負するんだったら、やれるんじゃないかと思いました。

ひとつの怪談を多方面から照射して立体的に描き出せば、もともと怪談が嫌いな人や、おばけを全然信じない人たちにだって、歴史モノやノンフィクションのような楽しみを提供できるかもしれません

一瞬で終わる演出としての怖さというのは、やはり映像や舞台に勝つのは難しいと思うんです。でも、いつまでも忘れられない文章や世界観が結果的に怖いものになっている……という形であれば勝負できる。人の心に何か心象風景を残すという意味では、読み物にもやれることはあると思っています

川奈まり子
1967年生まれ、東京都出身。フリーライターを経て、AV女優として活躍。山村正夫記念小説講座で小説を学んだ後、2011年に『義母の艶香』(双葉文庫)でデビュー。近年は、ルポルタージュ怪談の書き手として著作多数。日本推理作家協会会員。

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