死ぬほどプライドが高いので、何か失敗するよりは、“選択ぼっち”でいる方が気楽。という思いで、中高6年間を過ごした結果、20代も後半になって少し後悔が芽生えてきた。私は今後人生でどんな成功を収めたとしても、放課後に制服姿で友達とクレープを食べに行くことはない……。
池辺葵による漫画『雑草たちよ 大志を抱け』を読んで、自分の“ありえたかもしれない青春の可能性”に胸がきゅんと切なくなりました。
学生時代、登校するたび体操服に着替える生徒に怯えていた
コミュニケーションがめちゃくちゃ苦手なのですが、社会生活に上手くコミットできていない感覚があると、「もうダメだ……」と額の生え際から変な汗がたらたら流れてくる。
そこで私が思いついたライフハックが、“なんか変な子”としてコミュニティに身を置くこと。
周囲が笑える範囲の奇行に及べば(休み時間に1人でハーモニカの練習をする、など)、1人でいようが何しまいが、「あの子は、ああいう子だから」というルール外の存在にしてもらえるのです。なんなら「ちょっと天才肌っぽい子」として一目置かれたりもする。
君たち、ちょろいな!
実際の私は大変小心。「ここまでは笑える奇行だが、ここからは引かれる奇行だろう」と絶えず計算を働かせている。だから、うっかりマジで変な一言を言っちゃった日とか、1週間くらい引きずるんですよね。
そして、“見ているぶんには楽しい子”的ポジションを獲得した私は、“見ているぶんには~”的ポジションであるがゆえに、なんとなく楽しい気持ちになりたくなった同級生に気ままに構われるものの、一言もしゃべらない日もざらという学校生活を送ったのであった。
スクールカーストの埒外にいたからこそ、たまに急に最上位グループに誘われて、一緒にコンビニでアイスを食べるイベントが発生したりする。そのとき、オタク集団が通りかかり、オシャレな女子たちは、「あいつらキモいから、本当に死ねばいいのに」と笑っていた。
確かにキモいのは事実だけど、別に迷惑かけてないんだから、死まで願わなくていいじゃん……とビビると同時に、この八方美人的ポジションは孤独かもしれないが気楽だなぁと再確認したのでした。
学生時代、すさまじい嫉妬を覚えたのは、毎日登校したら体操服に着替える女の子。「汗かいちゃうから」と体育がない日でも彼女は1人体操服で過ごし、周りからクスクス笑われていた。そんなに汗かかねーだろ……と思いながらも、私は、別に誰を楽しませるでもない、ただただ周囲と真逆を行くだけの彼女のナチュラルな“奇行”に恐れおののいていた。
相手は覚えていないだろうけど、自分は救われた言葉
『雑草たちよ 大志を抱け』は、地方都市に生きる女子高生たちの青春群像劇。おしゃれが苦手で眉毛が濃い“がんちゃん”始め、描かれる女の子たちのほとんど全員がスクールカーストおそらくちょっと低め。登校カバンも学校指定のものか、小学生みたいなリュックサックで、クラスのキワモノまではいかないけれど、なんか地味な子たちで集まっているよねという印象のグループです。
しかし、彼女たちの青春がまぶしいのは、何か堂々としているからではないでしょうか。電車の中では『必殺』シリーズ談義で盛り上がり、虫を見つけたら写真を撮る、うっすら同級生から馬鹿にされている奴(音楽が好きで、合唱のときはいつも指揮者)の合唱の個人指導にも素直に付き合うし、なんならそのやる気を素直に褒める。
別に誰かに笑われても気にしない。気にしているのかもしれないけれど、それで病んだりはしない。いい意味で、マイペース。そんな姿がうらやましい……。
本作では、誰かが誰かに送った、何気ないようだけれど、受け取り手にとってはずっと心に残る言葉がいろいろ描かれます。それは、マラソンが苦手なたえ子に対する、ひーちゃんの「背すじのばして胸はれ」というアドバイスだったり、久子が好きなアイドルトークの中で発した「くさったりしないで かわいく見えるようにせいいっぱい努力してみようって思ったんだー」という言葉だったり。
相手は覚えていないだろうけど自分は一生恨み続ける言葉と同じくらい、相手は覚えていないだろうけど自分は一生救われ続ける言葉というものが世の中に存在するのだろうなぁ。
長年ちょこざいな技術に頼った結果、自分はコミュニケーション経験が実年齢に伴っていないなと感じる今日この頃です。私が何に怯えているのか、27年間生きていまだにわからない部分も多いのですが、その不安のせいで、得られたはずの何かを取りこぼしている気がします。それはたとえば、放課後に制服姿で友達と食べるクレープだとか。
単行本のエピローグ、ピコの母親ががんちゃんにかけたセリフが心に残ります。
愛することにも愛されることにも素直でいなくちゃ
みなさん、なるべく素直に生きましょうね。
※ちなみに『雑草たちよ 大志を抱け』は、漫画ライターの小林聖さん(@frog88)が推薦してくれました。ありがたや~。