プロレスラーの高山善廣が試合中に頸髄を損傷してしまった。肩から下の感覚はなく、現状、回復の見込みはないという。
僕はプロレスに詳しい訳でもないし、観に行ったこともほとんどない。だけど、高山善廣の強さのほんの一部分を目撃したことがある。
10年前、バイクで事故を起こした
10年ほど前、僕はピザの配達のアルバイトをしていた。その日は雨が降っていて、夜になると視界は最悪だった。完全に僕の過失だが、睡眠不足で運転していたこともあり、僕は小道から出てきた人を轢いてしまった。
ドーン! という強い衝撃を受け、僕は恐怖で眼をつぶってしまった。全身の毛穴から汗が噴き出し、一瞬のはずなのに、脳内に「やってしまった」という言葉が何度も反復したことを覚えている。
しかし、人を轢いたはずなのに、なぜか悲鳴もうめき声も聞こえてこない。それどころか、眼の前に人が立っている気配がする。僕が恐る恐る眼をあけると、そこにはこれまで見たこともないほど大きな男が立っていた。
高山だーー!!!!
僕はプロレスに明るくない。それでも、高山善廣の存在は知っていた。当時、ドンフライとの死闘を知らないヤツなんかいなかった。あのデカさ、あの金髪、そしてあんなに派手なパーカーを着こなせる男は、この世に高山しかいない。
高山はバイクで轢かれたにも関わらず、「ンッ!」と軽く咳払いをすると、こっちに一瞬笑顔を浮かべてそのまま去っていった。その平然とした後ろ姿は、「もうバイクに轢かれたことなんて忘れたぜ?」と、僕に優しく語りかけてるようにも見えた。
痛いのか、痛くないのか、どっちなんだ高山!
原付といっても配達用の三輪バイク、そんなに軽い乗り物ではない。スピードだって少なく見積もっても20kmは出ていた。衝撃はそうとうなはず。その証拠に、轢いた勢いでハンドルにぶつけた僕のズボンの膝は破れ、血がにじんでいた。
本当は高山も痛かったのかもしれない。少しくらいはケガを負ったのかもしれない。しかしそれでも高山は、プロレスラーとして、最高に頑丈な肉体を持った男として、僕に笑顔を見せて去っていった。
まるで漫画のような男だ。慣用句でも比喩でもなんでもなく、当時の僕は、高山のかっこよさに、ただただ震えた。まぁ、高山のことだから、マジで痛くなかった可能性もあるが……。
そんな最強の身体と心を持つ高山が現在、リハビリに励んでいるらしい。リングに立ってくれとは言わないが、やせ我慢でも良いから「頸椎のことなんてもう忘れたぜ?」と、悠然と歩く姿を見せて欲しい。
高山を応援する会「TAKAYAMANIA」は、治療費などに充てる資金を募っている。
サイト 高山善廣オフィシャルブログ
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口座名義:株式会社 髙山堂