自分は編集プロダクションの代表取締役であると同時に、現役の編集ライターでもある。いい悪いは別にして、今でも経営者としての仕事と同じくらいの熱量で現場の仕事もしている。
独立する前の会社では、自分がエースだという自覚と気概を持って仕事をしていた。それこそ、俺がやらなきゃ誰がやるんだと思っていた。そんな「現場のトップ」という立場から、独立して「会社のトップ」という立場になっても、そのスタンスが劇的に変わることはなかった。
もちろんそれでは会社は前に進まない。もともと現場の頃からメディアだけではなく業界や会社全体も見るという経営者的な視点を持っていたとはいえ、さらに視点のレイヤーを上げる必要があるのは当然。一日も早く自分の現場の仕事を社員に任せられる状態を作り、自分は社長業のウェイトを日々増やしていくことを喫緊の課題としてやってきた。
ところがそうすんなりいかないのがライターの性。書くのが好きでしょうがない。面白いコンテンツを自分で作りたくてしょうがない。自分の仕事を手放せないのではなく、手放したくないのだ。本心では自分が手掛けたい案件を、どれだけ断腸の思いで他のスタッフに渡してきたことか。
しかも、いまだにエースの座は譲っていないという自信がある。現場での力はナンバー1だと自負している。登板回数こそ減ったかもしれないけれど、いざ現場に立ったら誰よりもクオリティの高い仕事をする。自分にしかできない仕事もまだまだ多い。代表になっても、現場では社員のことはライバルだと思っていた。
自分以外のスタッフが素晴らしい仕事をすれば、心底嬉しい。社員がクライアントに評価されることは、俺自身の誇りだ。でも、ちょっぴり悔しくもある。「グッジョブ!」という称賛と、「ここまで来たか」という喜びと同時に、「やるじゃん」という驚きと、「これをやっていたのが俺だったら」という悔しさと、「負ける気はしないねえ」というプライドの入り混じった感情を本当に抱くのだ。
うちの社員は自慢の社員であり、俺にできないことだってたくさんできる。俺に作れないものも作れる。しかし、だからといって負けるわけにはいかないのだ。あくまで自分も編集者/ライター/コンテンツ作りをやりたい人間である以上、トッププレーヤーの座を譲る気は毛頭ない。
はずだった。
「HADO BEGINNER’S CUP #1」出場前最後の練習をしたあの日。
俺のレギュラー落ちが決まった。