「TVブロスコミックアワード2017」大賞に「俺マン2017」第1位獲得と、今、漫画好きからもっとも注目されている作品である大童澄瞳『映像研には手を出すな!』。みんなが見ているもの、私も見たい!
アニメ制作に情熱を燃やす女子高生3人組の物語。”オタクが考える最強の青春”が、そこにありました。
アニメーションに”役者”はいない?
ところで、まずは発売中の雑誌『映画芸術』の話です。こちらで発表された2017年日本映画ベスト&ワーストランキングでは、アニメ作品は対象外となっているのですが、その理由として「そこに役者がいないから」「スジ(ストーリー)とヌケ(映像)はあってもドウサ(生身の演技)は存在しないから」と説明されています。
一方、『映像研には手を出すな!』の登場キャラクター・水崎ツバメは、「アニメーターも役者なんだよ!」と熱弁します。
「しかも演じるのは人間だけじゃない! 殺陣以外にも犬とか猫の動きも演じるし、海に嵐に車に飛行機、ビームも爆発も全部アニメーターの演技ってことなの」
これほど『映画芸術』への反論としてふさわしい言葉があるでしょうか。生身はともかく、アニメーションには映像の隅から隅まで”演技”が詰まっているのです(まぁ『映画芸術』は、生身かどうかを重視しているようでしたが)。
……と、いったん『映画芸術』の炎上によって考えたことを語らせていただきましたが。
もしも『映像研には手を出すな!』が2000年代の作品だったら
もし私が思春期のとき、『映像研には手を出すな!』を読んでいたら、映像研の3人娘に憧れたのか。それとも何かコンプレックスを刺激されたのか。
だって、浅草みどりと金森さやか、水崎ツバメの3人はあまりにもまぶしい。エネルギーにあふれ、才能もありそうな女子たちが、同じ目標を目指して疾走し、「こいつら、なんか面白いじゃん」と周囲を感心させたりする姿。いやー、まぶしすぎる!
10代のときに読んでいたら、「この3人ほど私は何かに打ち込めていない……」と落ち込んでいたかもしれない! 危険! それほどまでに、まぶしい!
アニメーター志望のカリスマ読者モデル・ツバメの描写には、非常に2018年を感じます。浅草、金森は、そこまで身なりに気を使っている様子もなく、言ってしまえばオタクっぽい。一方、ツバメは誰が見ても”イケてる美人”。
勝手な想像ではありますが、『映像研には手を出すな!』が2000年代の作品だったら、「ツバメはアニメ好きであることを周囲に隠している」という設定になっていたんじゃないかと思います。
『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』と『乃木坂春香の秘密』は、2000年代に人気を誇ったライトノベルですが、どちらも「美人で人気者なヒロインは、実はオタク」という設定の作品です。
2000年代はまだ「アニメ・漫画はクラスの日陰者の趣味」というイメージが強かったということなのでしょう。しかし、今では人気アイドルやファッションモデルがオタク趣味をオープンにすることは珍しくありません。むしろカリスマ的存在が実はオタクだとわかったら、好感度が上がりそうです。
ツバメは普通に浅草や金森と一緒にいるし、学園祭でアニメを発表するときも、堂々と自分が作ったことを明言する。この“オタクを悪い意味で特別視しない”感じ、今の時代の空気に沿っていて好感が持てます。
女子キャラ中心の作品によく感じるストレスがゼロ
ツバメが浅草や金森のファッションに口を出したりしないのも、浅草や金森がツバメに劣等感を感じたりしないのも、「女はオシャレすべし」みたいな価値観に乗っていない感じがして、やっぱり今っぽい。
ただ、そういった描写がないのは、彼女たちが友情というより目的意識で強く結ばれていることも関係しているのかも。第2巻のラスト、ツバメの父親から「ツバメのお友達?」と聞かれた浅草は、「いえ、仲間です」と答えます。痺れる。
自分と同じ方向を向いている存在を、人は”仲間”と呼ぶのでしょう。となると、”友達”というのは、全然違う方向を見ていても、ふとしたときに寄り添える相手ということか。そして、女同士の”仲間”関係や、”友達”関係を書くのが大変巧みなのが、小説家・柚木麻子です。
柚木麻子は多くの作品で、女同士の連帯をテーマとしてきました。本人は大のドラマ好きであることを公言しており、その作風は「セックス・アンド・ザ・シティ」から強い影響を受けていると思われますが、登場人物の女性たちが、お互いの特技を活かし、キャーキャー大騒ぎしながらトラブルを解決していく様子は、どこか女児向けアニメっぽくもある。
ガールズトーク的なやり取りをふんだんに盛り込んだ柚木麻子の作品と違って、『映像研には手を出すな!』は、浅草、金森、ツバメを男性キャラに置き換えても成立する印象なので、女の連帯モノとして同漫画を捉えていいものかは少々微妙なところではありますが……。
それでも、「女子だからファッションの話題を!」や「女子は甘いものが好きなんだ!」と変に”女子”要素をねじこまず、浅草やツバメをのびのび怪獣やメカ妄想に興じさせているところは、やっぱり好感が持てる。女性キャラクター中心の物語に対してよく感じるストレスが完全にゼロです。
これだけ女同志の繋がりをカラッと描写できるなんて、もしや作者の大童氏は女性なのか?と調べてみたところ、男性らしく、はぁ~2018年! とにかく作りが丁寧、誠実な作品なので、今後も末永く見守っていきたい……!