いとわズ編集部の中の人の、見た聞いた買った食べた触った嗅いだetc…いろいろなものをレビューします。
いずれクロスレビューなんかもやる、…かも!
いや、やりたい!
海外ホラーはビックリ系だけ?
筆者はホラー映画好きなのですが、これを言われると確実にカチンとくるセリフがあります。
日本のホラーと違って、海外ホラーはビックリさせる系でしょ?
ホラー映画をたいして見ていない人ほど言いがち!
ジャンルについて本当によく知らない人が質問のつもりで言っているならまだしも、このセリフの裏には大体「ジャパニーズホラーと違って海外ホラーは低俗」という嘲笑が隠れています。
海外ホラーはビックリ系って一体何年前の話をしているんだ。そんなヤツらがいるから、「とにかく霊をチラチラチラチラもったいぶって映せば怖いんでしょ」的にジャパニーズホラーを雑に解釈した邦画ホラーがまた作られてしまうんだ。
とは思いつつも、気が弱いので「まぁ昔はそうだったかもね……」くらいのあいまいな返事しかできない筆者です。
しかし、今後は反論として映画『ジェーン・ドウの解剖』(5月20日より全国順次公開、監督:アンドレ・ウーヴレダル)を紹介しようと思いました。
こちらは90分足らずの短い作品ですが、あまりの恐ろしさに上映中は「早く終わってくれ」とひたすら念じていました。普段なら隣の席が落ち着きのないタイプの観客だと殺意が湧きますが、本作に関しては、隣の観客がガサガサ存在感を発揮してくれることで救われた部分があります。
しかし違う作品で遭遇したときは許さないぞ。
凶悪すぎる演出…“鈴の音”
一家惨殺事件の現場で見つかった、身元不明な裸の美女の死体。検死官トミー(ブライアン・コックス)と息子のオースティン(エミール・ハーシュ) は彼女の検死に取り掛かるが、次々に怪奇現象が発生する。地下の遺体安置所という閉ざされた空間かつ、外は嵐。逃げ場のない恐怖が父子を追い詰める――。
イギリスで制作された作品ですが、いわゆる“ジャパニーズホラー”的な演出が光ります。
まず音の使い方が、かなり凶悪なんですよね。
古くからの慣習で、遺体安置所に運び込まれた遺体の足首には鈴をつけることになっているそう。物語の序盤で「ふーん。ひとつ賢くなった」と聞いていたこの話が、後になって効いてきます。暗闇の中で、チリン、チリンと近づいてくる音……。
この音演出や、チラッと映る影が、こちらの精神を少しずつ、しかし確実に削り取っていく……! 直接的に怪物が登場しなくとも、作品全体に不気味な気配が漂っており、観客もすぐ後ろに誰かが立っているようなジトッとした感覚を覚えます。
……えっと、錯覚ですよね?
克明な解剖シーンが痛い・・・
怪奇現象自体の描写は、安易に残虐さに頼らない、大変洗練されたものです。
しかし、やはり“解剖”がテーマということで、さすがR15+のグロ描写。淡々と皮膚や内臓にメスが入れられていく様子や、内臓の状態が克明に映されるため、相当グロ耐性がある人でないと鑑賞はキツそうです。脳を確認するために頭蓋骨を切り開くシーンで、思わず自分のこめかみを抑える。
筆者が一番感心したのは、ジェーン・ドウが〇を〇〇するシーン! 物語の鍵が死体となると、観客が気になるのは、一体いつ死体が〇〇するかということですが、焦らして焦らして、あーッ! そこで来ますかーッ!
本当に、なんと恐怖描写が洗練されている映画か。ネタバレ防止のために大量の伏せ字を使いましたが、ここはどうしても褒めておきたかったポイントです! 見た人には伝わるはず……!
とっとこはしって気を落ち着ける
『ジェーン・ドウの解剖』を見れば、「海外ホラーはビックリ系」なんて言って得意になっている人も黙ることでしょう。
演出はジャパニーズホラーっぽいのに、物語の核に西洋的なギミックが使われているところが粋。あまりに自然な融合なので、「海外でジャパニーズホラーの真似事を頑張っている」なんて難癖もつけられません。再構築というかネクストレベルというか。いやー見事! ホラー好きほど唸る作品かも。
減点するべき箇所がなく、2017年に公開された、いや近年公開されたホラー映画の中でもトップクラスで上質な作品である『ジェーン・ドウの解剖』。
しかし、いまいち集中して見られなかったので、元気が有り余っているときにもう1度見たいな……。なぜ集中して見られなかったって、そりゃ怖すぎたからですよ!
上映中は恐怖を紛らわすために、筆者は心の中で「ハム太郎とっとこうた」を歌っていましたが、同じようなことをした観客は少なくないのではないかとにらんでいます。
もし『ジェーン・ドウの解剖』を鑑賞したという人に会った際は、「もうダメだと思った瞬間、どうやって心を落ち着けた?」と聞いてみたいものです。