映画『ベイビー・ドライバー』(8月19日公開)は、カー・アクションとミュージカルが融合したエドガー・ライト監督の最新作。主人公は音楽を聞くことで驚異的な運転テクニックを発揮し、犯罪組織の“逃がし屋”を稼業にする通称“ベイビー”(アンセル・エルゴート)です。
銀行強盗を毎回成功させるベイビーは、犯罪組織のボス(ケヴィン・スペイシー)から絶大な信頼を得ていますが、ある日カフェで働く女の子デボラ(リリー・ジェームズ)と恋に落ち、犯罪から足を洗おうとします。しかし、敏腕のベイビーをボスが簡単に手放すわけはなく、デボラへも危険が迫るのでした……。
人も車もダンスさせる華麗なアクションの連発
ベイビーは幼少期に遭った事故の後遺症から耳鳴りに悩まされており、片時も音楽が手放せません。お気に入りの曲が入ったiPodを持ち歩き、耳にする音をいつもコントロールしています。劇中は観客もベイビーが聞いている音世界を疑似体験しているかのように、音楽が鳴りっぱなし!
ど派手なカーチェイスのスリリングな状況や恋に落ちたときの温かい気持ちなど、ストーリーの状況と音楽がシンクロして展開されます。
劇中に使われる音楽は、圧巻のオープニングを飾るロックバンド、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンの楽曲「ベルボトムス」を筆頭に、クイーンやT.Rexなど50年代から現代までの洋楽ロックを中心とした楽曲が絶妙に繋がっていきます。
音楽とストーリーが一体化する時間の流れ方は、ハイライトとチルアウトのバランスが完璧なクラブイベントを体験しているかのようでもありました。
目で見るリズムにも乗せられて…
登場人物の動きに音楽のリズムがシンクロするシーンも多く、冷徹な表情で話すボスの身振り手振りも、本人の意図を離れてラッパーのようなアクションに仕立てられていることも。
ライブ感のある振り付けを担当したのは、ライアン・ハフィントン。覆面シンガー・シーアの楽曲「シャンデリア」のMVや、長澤まさみが銭湯で踊り狂うパフォーマンスアパレル「UNDER ARMOUR」CMの振り付けも手掛けています。
さらに、両親を事故で失ったベイビーの養父は、耳が聞こえず口も聞けないという設定にも、思わず膝を打ちたくなりました。養父が音の振動で音を感じ取る様子は、観客の方もより深く音楽を捉えるのに効果的。
ベイビーとのコミュニケーションは手話で行われるため、2人の対話の背景にある音楽も、おしゃべりの声に遮られることなく、音楽が鳴り続けます。生粋の音楽好きで知られるライト監督の、音に対する細やかさがいたるところで発揮されていました。
ミュージカル映画の新種が誕生!?
ライト監督は今までに、映画『ショーン・オブ・ザ・デッド』、『ホット・ファズ -俺たちスーパーポリスメン!-』など、オタク気質な登場人物たちをコミカルに描き、カルト的な人気を得てきました。
『ベイビー・ドライバー』では、古典的なロードムービーやラブロマンスなどの系譜がありつつ、予想がつかない躍動感のあるストーリーで最後まで観客を引き込み続けます。
DJとして来日経験もあるベイビー役のアンセル・エルゴートは、映画『きっと、星のせいじゃない。』(2015)の好青年役で、特にアメリカの女の子たちから絶大な人気を得ました。今作では、音楽から情熱が沸き起こる様を伸び伸びと演じ、音楽作品との相性の良さを見せています。
デボラ役のリリー・ジェームズは、実写版『シンデレラ』(2015)の華やかな姫役でブレイクしましたが、今作ではロック好きのかわいい女の子から、ベイビーの犯罪に巻き込まれ、どんどん強く特別な女の子になっていく変化を清々しく演じて切っています。
さらに、ベイビーの母親役で出演したマルチアーティスト、スカイ・フェレイラが歌うコモドアーズのカバー曲「イージー」も吐息混じりで素晴らしく……と、今作は他にも褒めるところを上げればキリがありません!
ミュージカル映画の新しい可能性が示されたような作品です。
映画『ベイビー・ドライバー』