君はトカナ映画を知っているか。世界のオカルト情報を多数扱うニュースサイト「トカナ(TOCANA)」が映画配給を始めたのですが、これがまぁどれも自分の心をキュンとくすぐってくれる作品ばかり。
「こんなの見たことない」と、とりあえず思わせてくれるトカナ映画
正直なところ、人によってはクソ映画と一刀両断することでしょうし、私もそれは否定しきれない。しかし、映画に対して、総合的な完成度の高さよりも「こんなの見たことない」と感じる要素がひとつでもあることで大幅加点してしまう人間としては、トカナ映画と聞くと、ちょっと心がウキウキしてしまうものなんです。「観たら死ぬ」というのが売り文句の『アントラム/史上最も呪われた映画』(2020年)は、上映中にうとうとしてしまったのですが、起きたらパンツ一丁の日本人男性が切腹しようとしていて、「これは夢か?」と思いました。幼い姉弟が森をさまよう話を観ていたはずだったのに。
また、パリ人肉事件・佐川一政とその弟に密着したドキュメンタリー『カニバ/パリ人肉事件38年目の真実』(2019年)もやはり途中で寝たものの、とっ散らかった内容にむしろ殺人者の心理が見え隠れする生々しさを感じて、不思議と心に残る映画でした。
そして、1月21日より公開中のペルー映画『シークレット・マツシタ/怨霊屋敷』(以下、『シークレット・マツシタ』)です。トカナ映画お得意の「これは実話」煽りに、「松下さんは無料で鑑賞OK」「全国の松下さんから推薦コメントを集める」というしょうもないキャンペーン、景気がよすぎて逆に安っぽい雰囲気の予告映像といい、トンチキへの期待に胸をふくらませながら劇場へ向かいました。
……その期待は、半分叶えられ、半分裏切られる結果となりました。なぜなら『シークレット・マツシタ』、意外とかっちり作られたホラー映画だったのである。
ホラー映画好きであれば、いったん「好感を持つ」作品
物語の舞台は、ペルーの首都リマに実在するという伝説の幽霊屋敷“マツシタ邸”。かつて日系人一家が住んでいたその屋敷は、凄惨な事件の現場となり、数々の超常現象が目撃されてきた。そして、ある撮影チームがマツシタ邸に潜入し、消息を断った。失踪から6か月後に発見されたビデオテープに記録されていた事件の全貌こそが、『シークレット・マツシタ』なのです。
初めは幽霊屋敷を舐めていた撮影チームが徐々に事態の異常さに気づき……という王道の構成を取りつつ、『呪怨』を彷彿させる少年などでニヤリとさせつつ、「これで終わりか?」と思わせたところからもう一捻り加える。予想に反して、まるでお手本のような作りのホラー映画でした。
「死」という漢字がモチーフとしてやたら出てくるところについては、「笑える」という意見も多いですが、自分としては「なるほど。読めない文字というのは恐怖演出になりえるし、その“読めない文字”として漢字が使われているのは新鮮だな」とむしろ興味深く感じたポイントです。
基本をしっかり抑えた上で、何か新しいことをしようとする意思も伝わって、ホラー映画好きであれば、ハマるハマらないは別としても、いったん「好感を持つ」作品ではあるんじゃないでしょうか。トンチキを目撃するつもりだったので、意外としっかりした作りに逆に拍子抜けしてしまったほどです。
ホラー映画とラーメンのレビューは、マニアと非マニアで分かれる
しかし、いい映画を観ることができてホクホクしながら、「シークレット・マツシタ」で検索をかけたら、「B級どころかZ級」と揶揄する感想を見かけて、衝撃を受けたのでした。こちらとしては、「Z級を観るつもりが、A級を見せていただいた」という感想なのだが!?
ただ、その感想の投稿者は、どうも常日頃からホラー映画を鑑賞しているわけではない様子。ホラー映画とラーメンのレビューは、マニアと非マニアで評価が大きく変わりがちです。マニアは作り手の志の高さを買って加点したくなるものですが、非マニアからすると志云々は関係ない。これまでのジャンル史などを踏まえたハイコンテクストな批評はもちろん大切なものですが、単純に「自分にとっておもしろい/おもしろくない」が知りたい非マニアにとってはノイズにしかならない場面もあるよなぁと思い、何か感想を言うときは気をつけねばな……と我が身を省みたのでした。
ところで、トカナは配給だけでなく、ついに映画制作にも乗り出したそう。記念すべき初制作映画『真・事故物件/本当に怖い住民たち』(2月18日公開)も予告を見た限りは“変な映画”の波動を感じますが、はたして……?