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【演劇】プロレス団体が演劇界に殴り込み!『櫻農カプリチオ』は舞台とプロレスを紙テープでつなげてみせた

DDTプロレスリングの若手団体DNA(DDT NEW ATTITUDE)が挑戦した舞台『櫻農カプリチオ〜櫻ヶ丘農業高等学校狂想曲〜』(千本桜ホール)の公演が7月5日より始まった。

プロレスと演劇。交わりそうで交わらない両者がどのような形で融合するか。『櫻農カプリチオ』の舞台の上に立っているのは、プロレスラーなのか役者なのか。DNAが一から立ち上げた興行である以上、今回の作品の興味はその一点に集中すると言っていい。

この記事でも書いたが、僕はプロレスと演劇の親和性は高いと思っている。でも、近いものだとは思っていない。どちらも「ハレ」ではあるが、その空気は動と静、開放と密閉という真逆の方向を向いているからだ。

だから最初にこの企画の話を知ったときは、やるからにはプロレスをふんだんに採り入れた演劇になるだろうと想像したし、そうすべきだと思った。ほかの役者でもできることをやるのではなく、屈強な肉体を最大限に活かしたプロレスラーにしかできない演劇。自分たちのフィールドで勝負できる、演劇をプロレス側に巻き込んだ作品なら楽しいだろうなと思っていた。

プロレスラーなのに「妙に上手い」人たち

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果たして。そこには、得意なプロレスを持ち込むことなく真正面から作り上げた“演劇”があった。彼らがプロレスラーであることを忘れてしまうような(実際は明らかに体格が常人離れしてるので決して忘れないのだけど)、正統派演劇があった。高木三四郎社長が今回の企画について「舞台をやることでものすごく表現力と発信力の勉強になる」と語っていたが、プロレス プラスαの「プラスα」を得るためにあえてプロレス的な部分を排除した作品にしたのだろう。

それが、妙にハマっていた。「プロレスラーがお芝居してる」というノイズは早々に消え失せ、いつの間にか櫻ヶ丘農業高校の世界に入り込んでしまっていた。やたらゴツい生徒ばかりではあるのだけど。芝居のクオリティを担保してくれる森一弥、ムートン伊藤らゲスト俳優陣の力はさすがの一言で、彼らの存在のおかげでこの作品が単なる内輪ではなくきちんとした演劇作品として成り立っている。

その上で特筆すべきは、座長を務めた上野勇希の演技だ。サントリー伊右衛門のウェブCMでも「なんか妙に上手い」と言われていたが、それはあくまで映像の話。しかし上野は舞台でも劇場の空気を支配する演技を見せる。正直、むちゃくちゃ上手いわけではない。一生懸命が取り柄の芝居だ。しかし上野演じる櫻農の高校生・竜輝は、四方に客席があるリングとは違う演劇のステージマナーに戸惑うこともなく、観客に櫻ヶ丘農業高校を見せてくれた。

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竜輝の幼馴染を演じた勝俣瞬馬の芝居も実にナチュラル。上野とのじゃれ合いには、女性ファンが喜ぶだけでなく、「俺もこんな高校時代を過ごしたかった」と思った男性も多いのではないだろうか。もっとも、渡瀬瑞基とMAOのじゃれ合いは気持ち悪かったけども。

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不良3人組を演じたそのMAOも、独特の存在感を見せる。MAOの演技も決して上手いわけではないのに、なぜか安心感を与えてくれるものだった。常日頃、リングという舞台の上で己の体を使って観客の心を掴んでいるレスラーの面目躍如たる自己プロデュース能力の賜物なのかもしれない。そして島谷常寛と岩崎孝樹は普通に面白かった。

紙テープでつながる「舞台」と「プロレス」

この作品の満足度を最も左右するのが、物語の核に据えられた“パフォーマンス”そのものだろう。『ウォーターボーイズ』や『スウィングガールズ』のようにパフォーマンスがストーリー上重要な位置づけとなっている作品は、そのパフォーマンス自体で魅せる演出になればなるほど、つまりパフォーマンスの時間が長ければ長いほど良い作品になる。パフォーマンスに向かって物語が収斂していくのだから、そこで得られるカタルシスは大きい。

余談だが、2015年に上演されたももいろクローバーZ主演の舞台『幕が上がる』がイマイチだったのも、あの構成では劇中劇の盛り上がりがそのまま作品の盛り上がりにならざるを得ないのに、劇中劇があまりにも稚拙だったからだ(そのこと自体は劇中劇が高校演劇なので仕方ない)。彼女たちの演技は良かったし、映画版はめちゃくちゃ面白かったのに舞台版は微妙だった。それは取りも直さず劇中劇の扱いを誤ったからに他ならない。

今回の『櫻農カプリチオ』も、パフォーマンスが物語の大きなウェイトを占めている。そしてそこに、舞台と客席の空気をひとつにする仕掛けがある。DDT公式サイトを見ると、同作の「観劇ルール」として「紙テープ投げ入れは物語の最後の最後です」との注意書きが書かれている。その通り、プロレスファンにはおなじみの紙テープを投げ入れたくなる場面が用意されているのだ。パフォーマンスで客席も一体となった盛り上がりが作れれば、それだけでこの舞台は大成功と言える。その楽しさこそが、演劇の楽しさなのだから。

笑い声も、拍手も、演劇においては劇場内の空気をひとつにするための要素になる。そこに、レスラーと紙テープというプロレスの文法が持ち込まれたことで、この作品は他にはない武器を得ることになった。観客が上野勇希ではなく竜輝に向かって紙テープを投げた瞬間、客席も含めた『櫻農カプリチオ』の世界が完成する。ぜひそんな瞬間を味わってみて欲しい。

舞台 『櫻農カプリチオ~櫻ヶ丘農業高等学校狂想曲~』
「櫻ヶ丘農業高校は廃校になるらしい」――。平々凡々な高校生 相原竜輝は、そんな噂を耳にした。櫻農では、地元で美味しいと評判の櫻米(さくらまい)を生産している。味には絶対の自信がある櫻米が全国区で有名になれば、町の活性化につながる! そうすれば櫻農存続も叶うかもしれない!! でも一体どうやって有名に? 竜輝はある計画を思い付き、計画実行の為に仲間集めに奔走し始める。

2018年7月5日(木)~7日(土)、東京・千本桜ホールにて全6回公演。チケット購入方法やアフターイベントなどの詳細はDDT公式サイトをチェック!

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