何度インターホンを鳴らされても夜中に踊る癖をやめなかったのは、「誰も部屋に入ってこない」という安心感があったからに違いない。誰かが部屋に入ってくる恐怖を知らなかったし、知りたくもなかった。世の中には、知らなくても良いことがたくさんありますからね…。
そんな僕がいとわズ編集部の先輩・原田にオススメされたのが、テレビドラマ「トリハダ〜夜ふかしのあなたにゾクッとする話を」。このドラマはホラーですが、「幽霊は出ない」「超常現象は起きない」「音楽で恐怖を煽らない」「過度な演出はしない」「日常から逸脱しない」というトリハダ五箇条のもと、“現実味を帯びた恐怖”に焦点を当てた作品です。
幽霊がでないホラーは怖くないは間違いだった
幽霊が出ないということがあらかじめわかっていたこともあり、「大丈夫じゃん!!」と油断していましたが、本当に怖かったのは幽霊なんかじゃありませんでした。ドラマはオムニバス形式で展開されますが、なかでも怖かったのが第4話の「想像は人を支配する」と、第5話の「常に起こりえる監視のカタチ」です。
声が聞こえなくなる、これすなわち…
「想像は人を支配する」は、隣の部屋から揉めている声が聞こえて目が覚める女性の話で、怖いのは“隣から女性の声しか聞こえない”という点。会話だったら2人以上の声が聞こえるはずなのに、相手の声はまったく聞こえてこないのです。
そのため、隣の女性の声がピタッと聞こえなくなったときに「話が解決した?」ではなく「女性が誰かに殺された?」と想像してしまう。しかもその後、今度は自分の部屋のドアがドンドンドン! と叩かれ、ゆっくりと鍵が開く…。なぜ鍵を開けることができたのか? 犯人は大家さんなのか? それとも不動産屋? 結局最後まで犯人の顔がわからず、恐怖だけが残ってしまいました。
メールの送り主は一体どこから…
「常に起こりえる監視のカタチ」は、スパムメールに悩まされている女性がある日「いい加減にしろ」と返信したことで、奇妙なメールを何度も受信してしまうようになった話。返信の翌日、家に帰ってメールを見ると自分が電車に座っている写真など、“今日一日の行動”が添付され、アパート、玄関前と、メールが送られるごとに送信相手が部屋に近づいてきていることに気づいてしまいます。女性は友達に電話で助けを求めますが、次に送られてきた写真では電話していた自分が“部屋の中”から撮影されていた…。
そう、彼女はずっと監視されていたのです。独り身の女性にとっては特に怖い話なのではないでしょうか。
部屋は聖域、そう思っていた時代が僕にもありました
この2つの話がなぜ怖いと感じたのか…それはおそらく舞台が「部屋」だったからでしょう。いずれの主人公も、そして僕も部屋は“聖域”であると思い込んでいました。聖域とは「犯してはならない区域」のことを指し、何人たりとも入ることを許されません。それ故、侵害されるかもしれないという現実に直面したとき、恐怖が何倍にもなって襲いかかってくるのです。
みなさんは、自分の部屋は安全だからといってうるさくしたりしていませんか? 隣人はすでに知っているかもしれないし、対策を練っているのかもしれない。インターホンを鳴らして「うるさいですよ!」と注意されたほうが、まだマシなのかも…。