フリーライター・永江朗がインタビュー論をつづった『インタビュー術!』を最近読んだのは、自分がライターになって6年目、いまだにインタビューに関しては模索が続く日々だからです。
月並みな表現ではありますが、ライターが十人いれば十人それぞれ違うインタビューの方法があるもの。個人的には、ライターごとに一番やり方に違いが出るジャンルだと思っています。
とはいってもライター以外の人にとっては、“インタビューのやり方は無数にある”と言っても、いまいちイメージしづらいことかと思われます。だいたいインタビューは、こんな感じで宗派が分かれます。
読者が喜ぶことを聞けばいいのか?問題
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インタビュイーに心地よく話をしてもらいたい派
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インタビュイーにとって話しづらいことだろうと読者が興味を持ちそうな部分は聞きたい派
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読者目線だと、どうしても後者の方がインタビュアーとして意識が高いように見えますが、媒体目線だと、インタビュイーに「楽しかった」と言わせることを何より重視するケースも少なくありません。
たとえば、最近スキャンダルの出た人気ミュージシャンをインタビューするとします。「より多くの人の間で記事が話題になってほしい」という考えの媒体でのインタビューの場合は、当然スキャンダルに関する質問は外せないわけです。
しかし、これが通向けの音楽雑誌でのインタビューだったとすればどうでしょうか。インタビュアーが下手なことを聞いて、ミュージシャンに「もう今後何をリリースしようと、おたくの雑誌と仕事をすることはありません」と言わせてしまったら大変なことになります。
逆にインタビュイーが喜ぶインタビューができたなら、「次の曲をリリースしたときもぜひ」という話になるかもしれないし、なんなら「同じレーベルのこっちの人気アーティストのインタビューもお願いします」という話にもなるかもしれません。
AB間のどこに立つか?
要するにこれは、ライターという仕事のお客さんには、読者と媒体の2種類がいて、そのどちらを重視するかという話です。私はライターになったばかりの頃、読者の興味関心だけを考えた結果、アクセスは稼げてもインタビュイーからの評判はよくない感じになり、それによって外された案件もあり……大変反省……。
とはいえ、Aタイプ、Bタイプのどちらかにライターをはっきり分類できるわけではありません。A/B片方のスタンスに100%寄ってOKな媒体というのは少数だと思いますし。ふたつは同一線上の両極にあり、そのベクトル上のどこに立つことを選ぶかがライターの個性や力の見せどころです。
媒体や案件ごとにAB間のどこに立つかを調整し、「ネガティブな話題に周縁からじりじり迫り、相手が少しでも答えにくそうにした時点で、楽しい話題に切り替える」や「とにかく相手の気分を持ち上げて、言いにくいことも進んで話してもらえるように仕向ける」などの小技を使って、なんとか“多くの人が聞きたがっていることを聞く”と“インタビュイーに楽しんでもらう”の両立を図ります。
「先入観を持たないためにリサーチをしない」という選択
読者とインタビュイー、どちらをどの程度優先させるかというバランス以外にも、ライターによってスタンスが大きく異なるのが、“どの程度リサーチをするか”というところです。
「大多数の読者と同じ目線でいるために、変に詳しくなりたくない」という考えも根強いですが、とはいっても、その宗派の中でも一切リサーチをしない人というのは少数派でしょう。マニアにならない程度の“最低限”の知識という定義は人によって異なるため、もしかすると最低限と言う人々の中には、「自分は事前準備を大事にしたいタイプだ」と自負しているライターと、同じくらいリサーチをしている人もいるかもしれません。
自分の場合は、「面白い質問をするには、そのぶん知識が必要」という考えのため、リサーチは大切にしたい派。……なのですが、やはり現実には時間という制約があります。ブログの過去記事を全部チェックできたら理想ですが、実際は数カ月ぶんをさかのぼって読み、あとは節目っぽいタイミングでの記事をちょこちょこ確認すれば御の字という感じ。
とりあえず自分は、インタビュアーとインタビュイーという関係抜きにして、一個人として相手への興味が沸いたらひとまずOKというルールを取っています。
他人のインタビューの話が聞きたい
また、インタビュイーのもともとのファンと、インタビュイーについて何も知らない人と、想定する読者として、どちらをどの程度優先させるかという話もあります。あとは、事前に用意した質問にどこまでこだわるかというのも悩ましい部分。他にも細かい選択がいろいろあって、とにかくインタビューは頭を使う!
インタビューのやり方は、“二極間のどこを自分のスタンスとするか”という要素が多いので、自分以外のライターのインタビュー論が気になる今日この頃です。皆さんどのへんに立っているのだろう。
とくに自分が最近考えているのは、抽象度の高い質問をどこまでぶつけるか? ということ。回答が難しい質問は多少なりともインタビュイーにとってストレスだろうと、なるべく具体的な質問を心がけているようにしているのですが、「あなたにとって音楽とはなんですか?」のようなふんわりした質問だからこそ(このタイプの質問ダサいなとは思っているんですけど)、回答の自由度が高く、内面に近い言葉を引き出せる場合もあるんじゃないかという気もする。まぁ相手によるから一概にどうとは言えないアレですけど。
そういうわけで、知り合いのライターの方々とは積極的に仕事の話をしようと思っている次第です。ここで予告しておきます。
インタビューは会話の形式として歪
そういえばレビューなのに『インタビュー術!』の話をまったくしていなかった。文中で確かに~となったのは、
常に何ものかについて語ることを求められるインタビューというのは、会話の形式としてかなり歪なものである(大意)
という話でした。
インタビュイーの「何ものかについて語らねば」という緊張を解せなかったために、いまいち盛り上がりきらず終わった過去のインタビューのことを思い出すと苦い気持ちになります。雑談ではないものを雑談のように錯覚させるために、私はもっと会話のライド感とかを上手く演出できるようにならなければ、と感じた次第です……。