いとわズ

僕と京都とFebbと谷崎(下)

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約3分

哲学の道を南端から北端まで歩いたが、特に哲学的な気持ちにはならなかった。Febbの死。谷崎の墓。2018年の2月16日はまだ続いている。

2月16日(金)

平日だというのに銀閣寺は観光客で賑わっていた。僕も含めて、半分以上がストレンジャーだった。銀閣寺はこれで3度目だが、びっくりするくらいなんの感慨も催さない。金閣寺には行ったことがない。68年前のどこかの見習い僧侶みたいに重大な用件でもない限り、死ぬまで足を運ぶことはないだろう。

抹茶味のソフトクリームを舐めながら、銀閣寺の近所にある京都朝鮮中高級学校まで歩いた。校門の前でくたびれた古い校舎とグラウンドを眺めていると、冗談抜きで、自分があらゆる誤謬ごびゅうの集積の前に立ち尽くしているような気分になった。僕はいろいろなことを考え、そして忘れた。

タクシーで出町柳駅へ向かった。特になんの考えもなしに、外国人観光客に人気だという伏見稲荷大社へ行ってみようと思った。京阪電鉄の伏見稲荷駅で降りて、駅前のうどん屋できつねうどんをすすった。悪くはなかったが、期待を少しだけ下回る味だった。

日が傾いてきていた。勝手がよくわからないまま、おびただしい数の鳥居に覆われた稲荷山の階段を登りはじめた。結論から言うと、僕は稲荷山を舐めていた。汗だくでたどり着いた中腹あたりの休憩所で心が折れかけたが、ここまできたらもうやめられない。ダウンを脱いでがむしゃらに階段を登った。すれ違った和装のカップルが、ノートパソコンと書類と2週間分の着替えが詰まった僕の巨大なバッグパックを見て「ガチの登山の人じゃん」と笑った。だってガチの登山じゃん、と僕は心の中で反論した。

山頂に着いたころには完全に日が暮れていた。標高が高くなるにつれて、自販機の飲みものの値段も高くなるのが面白かった。山頂で大柄な白人女性に写真を頼まれた。あまり上手に撮ることができず、僕は2回「ワンモアタイム」と言った。ワンモアタイム。あっ、ソーリー、ワンモアタイム。オーケーオーケー、ソー・グッド。写真を確認した彼女の曖昧なリアクションで、なにもグッドではなかったことを理解した。

下りはとても楽だった。さきほどの休憩所で、京都の夜景を眺めていい感じになっている恋人たちの「めっちゃええやん」「じゃあ月イチで登るか?」「月イチは多いわ」という会話を聞いた。たしかに月イチは多い。完全に余計なお世話だが、年イチでも多いくらいだと思った。

JRの稲荷駅から京都駅へ向かった。できることならサンダーバードに乗って金沢に行きたかった。しかし大寒波の影響で日本海側は大雪だという。悩んだ結果、新幹線に乗って東京に帰ることにした。土産にすぐきの漬物を買った。帰りの新幹線の中で、Febbを追悼するjjjのつぶやきを読んだ。少し泣きそうになったが、涙は出なかった。そのかわり、jjjの2ndアルバムHIKARIに収録された「2024 feat.Fla$hBackS」は永遠のクラシックになった。

12月20日(木)

この日、jjjと盟友のSTUTSが作った2018年のアンセム、「Changes feat.JJJ」のミュージック・ビデオが公開された。僕はまたしても少し泣きそうになったが、やっぱり涙は出なかった。そういうものだ。

この著者について

チョウ ウヒョン
スポーツ、映画、ヒップホップ、近現代の日本文学などを好みます。当面の目標は若隠居です。
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