イタリア映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』(5月20日公開)は、テロやデモが起こる日常にさらされ続ける現代のローマが舞台。
永井豪原作のロボットアニメ『鋼鉄ジーグ』がモチーフになっているものの、ギャング映画のような緊張感が漂い、アニメのイメージを払拭させられるような先制パンチを食らわされて、ストーリーが始まります……。
“粗暴な男×無垢な女”はイタリア名作の遺伝子!?
主人公のエンツォ(クラウディオ・サンタマリア)は、孤独に生きる中年のチンピラ。窃盗などで日銭を稼ぐ中、ひょんなことから、銃で撃たれてもすぐ回復し金属も素手で曲げられるような超人的パワーを手に入れます。
その後エンツォは、アニメ『鋼鉄ジーグ』の熱狂的なファン、アレッシア(イレニア・パストレッリ)と出会うことによって、愛と正義に目覚めていきます。
エンツォとアレッシアの2人は、イタリア映画ということもあり、フェデリコ・フェリーニの映画『道』に登場する粗暴な男・ザンパノと、危ういほど純粋な心を持つ女・ジェルソミーナのカップルも思い起こさせます。
エンツォをアニメ『鋼鉄ジーグ』の主人公・司馬宙(しばひろし)のようだと慕い、身寄りをなくして施設に送られてもなお、エンツォの傍にいようとするアレッシア。その存在は、女遊びに気づきながらも、ザンパノに寄り添おうとしたジェルソミーナのようでもありました。
空想世界から気づく現実での幸せ
アレッシアとエンツォの仲が深まるにつれて気づかされるのは、互いに深い心の傷を負っているという共通点。エンツォは、将来の展望を夢見るはずの少年期に仲間を亡くし、アレッシアも虐待を受けながら育ってきたという過去があります。
アレッシアがアニメ『鋼鉄ジーグ』の世界に浸ることを唯一の楽しみとして現実を生き抜いてきたように、エンツォの楽しみはアダルトビデオ鑑賞という孤独な人生を送っていました。
アレッシアの逃避場所であったアニメ『鋼鉄ジーグ』の世界に引き込まれることによって、現実世界で感じる“幸せ”に気づくエンツォ。最初は超人的な能力を私欲のために使っていましたが、人助けにも使うようになっていきます。
空想の世界を使って、現実の世界でより強く幸せに生き抜くストーリーは、メキシコ出身の映画監督、ギレルモ・デル・トロの代表作『パンズ・ラビリンス』のようでもあります。
同作の主人公は、1944年の内戦が残るスペインで、冷酷な義父と暮らす辛い日常から逃れたいあまりに、自分は“魔法の国のお姫様”だと思うことで、悲惨な現状を切り抜けようとする少女・オフェリア。彼女は魔法の国の存在を信じることで、残虐な義父に立ち向かう強さを発揮したのです。
ダーク・ファンタジーの巨匠として知られるギレルモ監督は、日本のロボットアニメや特撮などの博識ぶりでも知られており、日本文化へのオマージュをたっぷり込めた映画『パシフィック・リム』を作っていることも興味深いところ。
日本の“ロボットアニメ”と海外のファンタジー作品やギャング映画など、あらゆる作風との化学反応が起こる可能性は、『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』でさらに広がったのではないでしょうか?
悪役・ジンガロの“歌唱力”にも注目!
さらに今作で惹きつけられる登場人物は、街のゴロツキでボスのジンガロ。残忍な人物ながら、全身スパンコール入りの衣装でグラム・ロッカーばりに歌うシーンもあり、音楽も担当していた監督、ガブリエーレ・マイネッティのこだわりも垣間見られます。
中性的な魅力をふりまくぶっ飛んだ悪役・ジンガロの存在は、この映画のエンターテインメント性を飛躍的に高めています。
イタリア本国では、2016年にイタリアの『アカデミー賞』にあたる『ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞』の最多7部門を受賞した今作。ストーリー展開に少し粗削りなところもありますが、“イタリアンギャング×日本のロボットアニメ×スーパーヒーロー×ピュアラブストーリー”というクロスオーバーぶりがとても新鮮でした。
昨年は、日本のアニメに憧れる少女が登場するスペイン映画『マジカル・ガール』が公開。今年は、日本の戦隊ヒーローに影響を受けたハリウッド映画『パワーレンジャー』も7月15日に公開が控えています。幼少期から日本の文化に親しんだクリエイターたちの作品は、今後も続々誕生していきそうです。
『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』
ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国絶賛上映中!
(c)2015 GOON FILMS S.R.L. Licensed by RAI Com S.p.A. – Rome, Italy. All rights Reserved.
配給:ザジフィルムズ