うさ……、いや、水沢悦子先生による漫画『ヤコとポコ』がはちゃめちゃに売れていない世界なんて間違っているので壊してしまえばいいじゃない!
かわいすぎるものは、切なさもかき立てられるなぁという話です。
おなかのチャックの金具を数えるポコかわいい
『ヤコとポコ』は、少女漫画家“ヤコ”と猫型ロボットのアシスタント“ポコ”のなんでもない日常を描いた作品です。ヤコが出版社で打ち合わせをしている間、ポコはゲームセンターで輪なげなんかをして遊んでいる。一度だけ、ゲーセンのみんなが憧れているUFOの乗り物にヤコが一緒に乗ってくれて、夢のような時間を過ごした。ヤコはぶっきらぼうなところもあるけれど、ポコの首に結んだリボンは、彼女が悩みに悩んでプレゼントしてくれたもの……。
世界観があまりにも優しい。心が大変洗われる。作品の清らかさ&可憐さに当てられて、第1巻を読んだ後は、漫画喫茶なのに「ああ~~!」と絶叫しそうになりました。迷惑になってはよくないので、その後きちんと購入して、自室で心ゆくまで「ああ~~!」となりました。
ヤコがお世話になっている出版社の名前は、“ぽんぽこ出版”。社員たちは、社員証代わりに頭に葉っぱを載せて、タヌキのしっぽをつけて働いている。ヤコが住んでいるマンションの名前は“りんごハイム”で、その名の通り、屋上にはりんごの木がたくさん生えている。こんな世界観がうさ……、いや、水沢悦子先生の柔らかいタッチで描かれるわけだから、1コマ1コマのかわいさが限界を突破している。
あと、ポコがひそかに楽しむ“無料のゲーム”は、おなかのチャックの金具を数えることなんですよ!? こんなにかわいくていいのかよ、と理不尽な怒りさえ沸いてくる……。
世界は一度滅びかけて“革命”が起こった
しかし、『こぐまのケーキ屋さん』のように100%ほっこりできる作品かと言われると、少し悩んでしまう。『ヤコとポコ』は、ほんのり暗い。
ヤコたちが暮らす世界は、ロボットは存在しているのに微妙にアナログ。パソコンはあっても、検索には10分ほどかかるし、大した情報も入手できない。アシスタントロボットのポコも“てきとう”モードに設定されているので、しょっちゅうトーンを貼り間違えます。
ヤコたちのおじいさん、おばあさんの時代。50年前、世界で“革命”が起こりました。当時は高度に発達した通信機器が存在していたのですが、ある日を境に自殺者が続出。どうやら何かテクノロジーが関係しているらしいということがわかり、インターネットが廃止され、通信が大幅に規制されるに至ったのです。
つまり、世界は一度滅びかけたということ。だからでしょうか、ヤコとポコの穏やかな日常がいつか終わるような不安が拭い去れない。テクノロジーの多くを捨てた世界のロボットは、どれくらい長く動けるようなものなんだろう?
作品にほんのり漂う死の匂い。これは昨年大ヒットを飛ばした『けものフレンズ』と通じるものがあります。『けものフレンズ』も、かばんちゃんやサーバルちゃんの楽しいやり取りを描きながらも、世界観の根底には「人間はどこに消えたんだ?」という不穏さがありました。
壊滅と呼ぶほど荒廃してはいませんが、『ヤコとポコ』もポスト・アポカリプスの系譜に連なる作品なのではないでしょうか。だから、不安な気持ちがどうしても消せない。こんなにヤコとポコは幸せそうなのにね。
『もしもし、てるみです。』がアニメ化
ただし、『ヤコとポコ』という作品には大きな問題があって、なんと最新3巻が発売されたのが2016年9月! 月刊漫画誌『Eleganceイブ』(秋田書店)で不定期連載ということで、そんなにポンポン新刊を出せないのは百も承知ですが、年1では読めると嬉しい……。
そうこうしているうちに、同じ作者によるショートギャグ『もしもし、てるみです。』のアニメ化が決定。こちらが盛り上がる→『ヤコとポコ』にも注目が集まる→連載ペースが上がる→あわよくばポコのぬいぐるみが発売される……という流れを期待して、とりあえず『もしもし、てるみです。』を応援しますね!