奥寺アナ「ベルギーは赤い悪魔でしたか?」
中田英寿「意味がわかりません」
結論から言えば、ベルギーは赤い悪魔ではなかった。「赤い」というのがユニフォームの色のことを指すのであれば、その部分についてはおおむね正しい。しかし彼らは悪魔ではなく、サッカー選手の集団だ。つまり、中田英寿は質問に対してこう答えるべきだったのだ。「いいえ、ベルギー代表は赤い悪魔ではありません。彼らは赤いユニフォームを着用した、ベルギーを代表するサッカー選手を集めたチームです」。
中田の「意味がわかりません」という返答が世間をざわつかせた16年前、ベルギー代表にはマルク・ヴィルモッツやペーター・ファン・デル・ヘイデン、ムボ・ムペンザらが招集されていた。そして今回はエデン・アザールやロメル・ルカクやケビン・デ・ブライネがいる(愛煙家の星、ラジャ・ナインゴランは呼ばれていない)。タレント力は16年前と比較にならないほど高いが、言うまでもなく悪魔であるかどうかとはまったく関係がない。そして悪魔ではなくても、25分で日本代表から3点を奪って逆転勝ちすることはできる。
日本の敗因を列挙する
たしかにベルギーのほうが強かった。試合後のスタッツを見ればわかるように、両チームの実力からすれば妥当な結果だった。それでも、2対0から逆転されたのだから納得できない人も多いだろう。僕もそのうちの1人だ。勝てたとまでは言わないが、後半20分からの采配次第で間違いなく延長戦には持ち込めた試合だと思っている。なぜあんなに有利な状況から、たった25分で試合をひっくり返されてしまったのだろうか。とりあえず、思いつく限りの敗因を列挙してみることにした。
マルアン・フェライニとナセル・シャドリの投入で日本の守備は決壊した。西野朗は交代策で後手を踏み、1点差になった段階で修正を施さなかった。フェライニの高さに対応するのは難しいかもしれないが、植田直通を入れるという選択肢もあったはずだ。選手を代えないのなら、せめて攻守のバランスや時間の使い方について明確なビジョンを伝えるべきだった。追いつかれてからカードを切るまでの数分間の逡巡も無駄だった。
ファビオ・カペッロが本田圭佑に苦言を呈したという最後のコーナーキック。ハイボールに強いティボー・クルトワに対してあまりにも無策だったことはもちろんだが、まず監督がリスクを管理しなければいけない場面だろう。ベルギーがカウンターを狙っていたのは明らかだったのに、なぜあそこまで前線に枚数を割いたのか。そもそもショートコーナーでアディショナルタイムを消化しろと指示すべきだったのでは?
単純に選手層が薄かった。4試合を通して、まともに機能した控え選手が本田しかいなかった。柴崎岳と代わった山口蛍に至っては、デ・ブライネのドリブルに対してほとんど無抵抗のままパスコースを与えた。何度見ても新鮮な失望を味わえるような守備だ。ポーランド戦で柴崎を酷使したことが最後に響いてしまった。逆にベルギーはターンオーバーが功を奏して、後半終了間際でも全速力のカウンターを打つことができた。交代選手は完璧に機能し、ベンチにはアドナン・ヤヌザイやミシー・バチュアイまで控えている。羨ましい話だ。
ゴールキーパーのレベルが違いすぎた。1失点目の場面の川島永嗣にはただただ絶句。加えて裏へのボールに対する出足が絶望的に遅く、パンチングやハイボール処理も不安定で、絶えずディフェンス陣に負担を強いていた。一方、クルトワは本田の無回転フリーキックを完璧にセーブしてピッチ外へと弾き出し、自身のスローイングを決勝点につなげた。率直に言って、比較するのも失礼なくらい能力に差がある。とにかくこのポジションを少しでも強化しないことには、今回以上の好成績はとても望めないだろう。
ベルギーは赤い悪魔ではなかった
すべては「たられば」にすぎない。選手起用や時間の使い方はともかく、控えの層やゴールキーパーの問題なんて一朝一夕でどうにかなるような話ではないこともわかっている。それでも悔しくて仕方がないのだ。昨晩、ベルギーは赤い悪魔ではなかったし、日本には勝つチャンスがあった。その事実だけはあらためて強調しておきたい。