DDTプロレスリングが、大会の撮影・中継、映像編集などを行う映像班のスタッフを募集中。しかし、「プロレスは好きだけれど映像の仕事は未経験だし……」や「映像制作には興味はあるけれど、ただ試合の映像を撮って出しするのではなく、もっとクリエイティブなこともできるのか?」など考えて、二の足を踏んでいる人も多いことだろう。
プロレス団体における映像班のやりがいとは? 現役プロレスラーでありながら映像班のディレクターでもある今成夢人選手に聞いた。
選手の感情を見つめていれば、必然的にクリエイティブになる
—映像とプロレス両方詳しくないと映像班になれないものなんでしょうか?
過去には、「プロレスは好きだけど映像制作は未経験」という状態で入ってきたスタッフもいました。映像とプロレスの片方しか詳しくないから応募段階で落とすということはしていません。どれだけ深い知識を両方に持っているかというよりは、とにかく体力と根性重視です。地方巡業にも同行して素材撮って編集して……という仕事なので、体力面がとても要求されます。そこでウソをついても仕方ないので、ハードな現場であることは隠しません。
—「映像制作はしたいけれど、ただ試合を撮って、そのまま流すことに興味はない」という人もいそうです。そういう人に向けて、映像班ではこんなにクリエイティブなことができるんだと伝えられたらいいかなと思います。
映像班の仕事がクリエイティブというか、そもそもプロレスラーっていろいろな事情の中で戦っているんですよ。選手たちを撮っていると、必然的に彼らの悩みや本音が浮かび上がってきます。この悩みと、この悩みがあって、こういう葛藤と、伝えたい気持ちがあって……というとき、何を取り上げるのが一番いいのか、我々も悩むわけです。何を使って、何を捨てるのか。プロレスラーたちの感情をただ見つめるだけで、どうあがいてもクリエイティブにならざるをえないんですよ。
—DDTグループの煽りVTR(試合前に流れる映像)の内容は、選手たちのインタビューであることが多いですね。ただ前哨戦の結果を伝えるだけのようなVTRを流している団体も多い中で、選手の内面を真摯に伝える映像は印象的です。
前哨戦ではこっちが勝って、あっちが負けて、「タイトルマッチの日は覚えてろ!」みたいな煽りVTRが比較的多いと思います。でも前哨戦にドラマがあるとは限らないし、前哨戦を撮っていても、正直自分の気持ちがそんなにアガらない場合も多い。それより本人たちにじっくりインタビューしたほうが早いんですよ。誰対誰っていう二項対立をどう煽るかっていうとき、まず2人の話を聞いて、思想上の違い、もしくは逆に共通点を見つけていく。だから、パズルみたいな感覚ですね。いろんなピースを用意して、最後に上手くはめていく感覚で編集しています。
—ある意味、映像班が試合のテーマを作り出しているとも言えますね。
もしかしたら、そういうケースもあるかもしれません。選手側も煽りVTRを意識した試合展開にしてくれたりするんですよ。たとえば竹下幸之介は、VTRを大事にしてくれる選手の1人で、「VTRが完成したら一度見せてください」って頼んでくるんですよ。たぶんVTRを見ながら試合のテーマとかイメージをふくらませて戦いに臨んでいるんだと思いますが、選手もVTRを武器にしてくれているのはすごく嬉しいです。
試合と直接関係なくても……常識破りを恐れない制作現場
—試合のテーマといえば、今年1月に行われたシングルマッチのリーグ戦「D王 GRAND PRIX」決勝戦での煽りVTRが印象的でした。HARASHIMA選手と石川修司選手の試合で、それぞれが若手時代の思い出話をしているという内容でした。BGMが竹原ピストル『Forever Young』という選曲もぐっときました。
HARASHIMAさんは年齢非公開ですけど40代だと仮定しますね(笑)。若手選手もたくさん出場しているリーグ戦で、決勝戦がおじさん対おじさんになった。僕はおじさん好きなので、おじさん同士の戦いを、この組み合わせになったことを称えたかった。その結果、煽りVTRでリーグ戦の映像は一切使わず、15年前の2人の映像を使うことに決めました。普通の煽りVTRであれば、2人のリーグ戦での戦いぶりを映すのが当然だと思います。でも自分がぐっとくる物語を作りたかったので……。若いころは2人とも細くて、うだつのあがらない感じだった。それから15年経って、DDT最強を決める戦いで競っている。過去と今の対比を見せたいと思いました。
—あと石川さんはVTRの中で、スタバのフラペチーノを飲みがちですね(笑)。石川さんはスタバ好きということを知っているプロレスファンにとっては、ふふっとなる部分です。
石川さんの怖さと可愛げが同居した雰囲気というのは、僕もインタビューしていて印象に残る部分です。それを画面越しにでも伝えたいので、ただインタビューでぶつぶつしゃべらせるだけではなく、『ここにフラペチーノを置いてみたら意味が生まれるな』のように考えました。伝わらない人も多いかもしれないけど、小ネタも抑えたいんですよね。
—今成さんとして、近年のVTRで「これだ!」と感じたものは何でしょうか?
竹下幸之介の母親に出演してもらったVTR(今年7月22日、東京・後楽園ホール大会にて)で、わっと会場が沸いたときは嬉しかったです。あのVTRは完全に僕の暴走で、試合と何の関係もない。ただ竹下の母ちゃんを映しているだけの映像です(笑)。でも、いかにも大阪のオバチャンって感じで、あんなに面白い母ちゃんいませんよ。しゃべりも強烈でインタビュー中にどんどん話が脱線していって、「私の好きな選手は今成選手やで!」とか言い出すんだけど、それがお客さんたちにウケました。「試合と関係ないだろう」っていうDDT首脳陣のお叱りもあるんですけど、トップに立つ高木三四郎は、「お客さんが喜ぶなら何でもあり」という観客至上主義の人間。だから、ウケれば結果オーライ的な部分もあるのかもしれません。
映像の需要は昔以上に高まっている
—今年4月には映像班が主催興行を開催しました。もちろん今成さんがプロレスラーとしてリングに立っているということも大きいでしょうが、これだけ映像班が存在感を発揮しているプロレス団体も珍しいですね。
DDTは初期から映像というものに力を入れてきました。旗揚げしたばかりの団体だと、試合内容だけでは他の団体に負けてしまう部分もあるかもしれない。その弱点を補う面白さを、DDTはひたすら模索し続けてきました。今でこそスタンダードになっていますが、1997年の団体旗揚げ当時、煽りVTRで興行を盛り上げるのはまだ珍しいことだったんです。しかし旗揚げから20年以上経った今、ウェブがこれだけ普及して、映像というものの需要は昔以上に高まっています。映像班としてできることは、まだまだあると思います。
—DDTが運営する動画配信サービス「DDT UNIVERSE」では、過去の試合映像のほかにドキュメンタリー映像などのオリジナルコンテンツも配信されています。映像班では、そういった企画のアイデアも自由に出せる雰囲気なんでしょうか?
自分目線で出したアイデアが通りやすい良い社風なので、むしろ面白いアイデアは、どんどん言ってほしいです。
—最後に、今成さんが考える映像班のやりがいを教えてください。
どんな映画監督も映画館で自分の映画を流すことはできても、後楽園ホールで流すことって早々ないと思うんですよ。これは別に冗談じゃなくて、1000人以上の観客に映像を届けて、ダイレクトに反応を見る機会ができるのって、映像業界でもなかなかないことだと思います。お客さんの反応はすごく正直で残酷ですが、後楽園ホールや両国国技館のような大きなハコで映像を流すことができるのって、すごく気持ちがいい。この仕事の醍醐味だと思います。
[box class=”box28″ title=”今成夢人”]
多摩美術大学の卒業制作として学生プロレス団体に密着したドキュメンタリー『ガクセイプロレスラー』が、国内外で高い評価を得る。DDTプロレスの映像班でディレクターを務めるほか、ガンバレ☆プロレス所属のプロレスラーとしても活動している。映画『プロレスキャノンボール2014』『俺たち文化系プロレスDDT』の助監督を務めた。
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映像班の仕事に興味を持った人は、履歴書を下記住所まで。
〒160-0022 東京都新宿区新宿2-1-2 白鳥ビル1F採用係
また、メール(ddt@ddtpro.com)や電話(03-5341-4687)での問い合わせも受付中。
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ガンバレ☆プロレスは、12月16日(日)11時30分より東京・後楽園ホール大会を開催。チケット情報などは公式サイトをチェック!