いとわズ編集部の中の人の、見た聞いた買った食べた触った嗅いだetc…いろいろなものをレビューします。
いずれクロスレビューなんかもやる、…かも!
いや、やりたい!
肉食動物と草食動物が共生する学園で……
さまざまな動物たちが通う中高一貫全寮制の“チェリートン学園”で、アルパカのテムが何者かに殺害される。肉食獣の犯行だと噂される中、演劇部美術チームのレゴシは、1羽の雌ウサギ“ハル”と出会う――。
……まぁ、あらすじを聞いたら10人中10人がディズニー映画『ズートピア』を連想するのは仕方ありません。『週刊少年チャンピオン』(秋田書店)で連載中の板垣巴留による漫画『BEASTARS』は、肉食動物と草食動物が共生する世界を舞台に、ハイイロオオカミの青年“レゴシ”の初恋と葛藤を描いた物語です。
世界観こそ『ズートピア』と共通していますが、『BEASTARS』は、異種間での恋愛感情やセックスにまで踏み込んで描写しています。一部から“闇のズートピア”と呼ばれているのも納得はできる……!
草食動物の殺傷事件は珍しくない
『ズートピア』でも、ある出来事をきっかけに草食動物が肉食動物を排斥しようとする展開となりました。一方、『BEASTARS』の世界では、草食動物の殺傷事件自体は珍しい話ではありません。珍しい話ではないからこそ、逆に普段は異種間同士でもそれなりに仲良くやれる。それでも新たな事件がニュースになると、学内にしばらく緊張した空気が漂ってしまいます。
とはいえ、肉食動物たちも大なり小なり肉を食べてみたい衝動を抑えて生活していることは事実。『BEASTARS』の世界では肉を食べることは重罪とされ、肉食動物たちも豆や乳製品、卵からタンパク質を摂取しているのですが、非合法な肉が販売される“闇市”という場がアンダーグラウンドに存在しています。
異種間同士のセックスにまで踏み込む!
また本作は、動物同士のセックスシーンもネット上で話題になりました。異種間でも恋愛やセックスは行われるのですが、あくまで結婚は同種同士のもの。そのため避妊は必須というところまで設定付けられています。
一見平和な世界だけれど、異種間には、なんとなく壁が存在している。その壁は普段は透明に擬態しているけれども、草食動物の殺傷事件などが起きると、強く存在感を発揮する――。その描き方がなんとも生々しく、差別というものについて考えさせられます。
いろんな意味でタダ者じゃないぞ、板垣巴留
ここまで読んで「説教臭い話ならちょっと……」と尻込みしてしまった人もいるかもしれませんが、ご安心ください。『BEASTARS』は、あくまで“青春群像劇”なのです。
それぞれの動物が抱える差別・被差別意識は、そのキャラクターが持つ行動理由や苦悩と繊細に絡み合って描写されます。
たとえば、レゴシはハルへの恋心が、たんなる捕食への欲望なのではないかと葛藤します。またハルは、誰とでも簡単に寝てしまう雌なのですが、その裏には弱い草食動物である自分への悔しさがあるようです。レゴシ、ハルと三角関係になる演劇部の役者長・アカシカのルイは、暗い過去を持ち、草食動物でありながら肉食動物を統べる地位を目指しています。
キャラクターたちが抱える切実な苦しみは、青春時代を経た誰でも何かしら身に覚えのあるものではないでしょうか。この繊細かつ緻密な構成、板垣巴留はタダ者ではない……!
板垣巴留の隠しきれない(たぶん本人も隠す気がない)フェティシズムも本作の魅力です。単に性描写があるという以上に、動物たちは妙に色っぽく描かれており、いわゆる“ケモナー”属性がない人も感じるものがありそう。雌のキャラクターが下着姿で身を寄せ合う扉絵は、こんなサービスイラストなかなか見ないよ!? と思いつつも、妙にドキドキしてしまうのが本音……。
『弱虫ペダル』と『BEASTARS』が共存する『週刊少年チャンピオン』
ところで筆者は『週刊少年チャンピオン』を読んで育ったのですが、子供心にも「『チャンピオン』はなんか変な雑誌だな」と感じていました。
掲載作品は、ハートフルだったり、エロだったり、爽やかだったり、ヤンキーだったり、萌えだったり、グロかったり……。いろんなジャンルの漫画のごった煮、それが『週刊少年チャンピオン』です。
なので私は、王道スポーツ漫画である『弱虫ペダル』と同じ雑誌に『BEASTARS』も連載されていることが、なんだか嬉しくてたまらない。もっと言えばそこに『AIの遺電子』や『ベルリンは鐘』もあり、『ドカベン』も『浦安鉄筋家族』もあり……、本当に『週刊少年チャンピオン』は一体なんなんだ。可愛いやつめ。
とりあえず、ここまで読んだ方にはまず『BEASTARS』を読んでいただきたい。
そして、「『BEASTARS』すげー!」と感じたなら、こんなエッジの効いた作品を掲載している『週刊少年チャンピオン』にも思いを馳せてみてほしい。
範馬勇次郎の「毒も喰らう 栄養も喰らう 両方を共に美味いと感じ―― 血肉に変える度量こそが食には肝要だ」というセリフそのままの器のデカい雑誌、それが『週刊少年チャンピオン』なのではないでしょうか。