劇団ゴキブリコンビナートの第32回公演『法悦肉按摩』を見に行きました。
悪名高いゴキコンを初めて鑑賞するぞ! と、わくわくしながら行きましたが、あまりの恐ろしさに開始10分で「もうお家に帰りたい……」とアイマスクの下でちょっと泣いた。
汚物や虫を投げる過激劇団
公式サイトいわくゴキブリコンビナートとは、「小劇場界のマンソン住血吸血として良心的な演劇ファンの神経を逆撫でし続ける素敵な奴等」。その言葉の通り、演劇青年だった弊社社長(神様は野田秀樹)は、ゴキコンが大嫌いだそうです。
ゴキコンの悪評については演劇好きじゃなくとも聞いたことがあるかもしれません。客席に向かって、汚物を投げるとか、虫を投げるとか、観劇の際は必ず汚れてもいい服装でとか……。
筆者は都内で昨秋開催されたオールナイトイベント『サディスティックサーカス2016』にて、初めてゴキコンのステージを目にしました。
男女3人が頬に長い金串を突き刺してつながり、「だんご3兄弟」を歌うというパフォーマンスは印象深かったのですが、物語の内容の不謹慎さにドン引きしてしまい、「ゴキコン=最悪」という図式が心の中に出来てしまったのでした。
会場の場所は口外禁止
しかし、7月1日~3日に約2年ぶりの新公演が行われると聞いたとき、ちょっと気になってしまった。地下アイドルの姫乃たまちゃんがファンを公言しているし、もう1回だけ見てみようか……。
ドキドキしながらチケット予約メールを送ったら、意外にも丁寧な案内メールが返ってきました。…少し安心。
ですが「会場の詳細を絶対にSNSで公表しないで」「汚れてもいい服装で」「一切のクレームは受け付けられない」という文言が気になる……。
やっぱり怖い!
アイマスク着用で会場入り
怯えながら都内某所へ。野外に建てられた、ブルーシートに包まれた掘っ立て小屋が会場です。さすがに観客は慣れたもので、みんなレインコートに身を包んでニコニコしています。
うーん、「嫌なら見るな」が実現している世界だ。
会場には、受付で渡されたアイマスクを付けた状態でスタッフに手を引かれて入っていきます。
すでに怖い。
周囲が見えないため、どの程度の広さの空間に何人ぐらいがどのように詰め込まれているのか、まったくわかりません。満員電車のような密度ですが、場所によってはスカスカだったりするのかな。隣にはどんな人が立っているんだろう。あっ、手がぶつかった。そして近くで誰かが鼻歌を歌っている……。
虫は嫌だ、ゲロは嫌だ…
ゴキコン第32回公演『法悦肉按摩』の物語は、盲人の女性が、按摩学校の憧れの先輩だった男に会いに行こうと電車に乗るところから始まります。なるほど、女性と観客の感覚を同期させるためのアイマスクだったのだなと感心したのもつかのま、地獄の数十分が始まりました。
狭い小屋の中、舞台と客席の区別なんてものはありません。観客たちの間で役者は演じます。そして満員電車の中で突然始まるケンカ! しかも、片方は“虫使い”! 現れる酔っ払い! 「うんこがしたい」と騒ぎ出す女たち!
虫は嫌だ、ゲロは嫌だと逃げ出したいのに、どこに逃げればいいのかわからない。逃げた先が虫使いや酔っ払いの真正面だったらどうしよう……。
ただ震えながら壁に寄り添い、「早くお家に帰って平和にアイスが食べたい」とアイマスクの下で私はちょっと泣いた。泣いている間にも、謎の小さい何かや、酸っぱい臭いの飛沫が頭に降りかかっていた。
いつ自分が“被害者”役になる?
途中でアイマスクは外してOKになったのですが、1時間余りの上演時間中、物語の登場人物と一緒にいつ自分が“被害者”の側になるのか気が気じゃありませんでした。だってドラム缶は飛んでくるし、土砂は流れてくるし、浣腸が取り出されるし。
今まで「すごく感情移入した」とか「ハラハラした」とか言って見ていた舞台とは段違いのスリルでした。だって小屋の中で役者たちと一緒に泥まみれになって、もう半分当事者だもん!
とはいえ、観客に当事者感覚を抱かせる方法としては非常に力技ではあるので、演劇好きな人ほど意見がわかれそうなところだと思いますが……。
もう二度と行くかと思ったものの、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ということでしょうか。次回公演の発表があったら、さんざん迷った末にまた予約メールを送ってしまいそう。強い刺激だからこそ、また欲しくなるのかもしれません。
しかし、「虫とかいっていたけど実際ただのオモチャか何かをぶつけていただったりして~」とアイマスクを外したら、床にコオロギが這っているのを見たときの衝撃は二度と味わいたくない……ジレンマ……いや、しかし……。
ところでゲロは本当にゲロだったのかな!?